「洪水」9号が出来上がった。ぼつぼつ執筆者や送った人から反応が返ってきているが、おおむね歓迎されているようで、嬉しいかぎりだ。詩の方に重心を置いた号になったが、詩人の人たちには入って行きやすかったかもしれない。作曲家の中川俊郎さんに登場していただく新企画「coconi utao」の第一回がまず見開き2ページで現れる。中川さんとは江古田の喫茶店「ぶな」で何度もお会いして、どんなページにしようかと相談した。まず題材の詩作品になにを選ぶかから始まり(これに相当時間がかかった)、選んだ作品(谷川俊太郎さんの「モーツァルト、モーツァルト!」となったが、これが構成がとんでもない詩なのです)をどう捉えるか、作曲の過程をどういったレイアウトで提示するか、と迷い始めたらきりがないことを迷いながら決めていき、まず一回目の試行ということで、時間もないし、ままよとやってみた。いかがだったか。次回はさらに面白くしたいと考えている。はたして演奏まで行き着くのか、それは運を天に任せて…。
川口晴美さんに作品を選んでもらい、解説文も書いていただいた「詩で描く新世紀地図」、時代の息吹をはらみ新しい視野をひらく珠玉七篇は、どう受け取られているだろうか。須永紀子さんの「ジェネシス」は以前川口さんと渡邊十絲子さんにお頼みした「詩の筏」でじっくりと読んだ作品で、思い出深い。そのほか、暗部に降りて行くようなもの、現実のひんやりとした感覚を呼び起こすもの、苦み辛みが刺激的なもの、悟りのような境地を示唆するかのようなもの、夢を見ているかのような不思議なリズム感覚のもの、それぞれに特色があるが、こうして七篇を並べてみると川口さんの詩に対する愛情と期待、味覚の志向と可能性の捉え方がはっきりと伝わってきて嬉しく、詩を読む、ということの最新かつ絶好のヒントがここにあると言えると思う。
野村喜和夫さんによる安藤元雄さんへのインタビューは、中堅以上の詩人の方々がとても喜んでくれているようだ。大森駅から歩いて5分のところにある喫茶店ルアンで2時間にわたって行ったが、評論集で安藤さんの仕事を論じたことのある野村さんだけあって、非常にうまく組み立てて下さり、たくさんの興味深いお話を引き出していただいたと思う。インタビューのあと、駅に戻り、山王側に面したビールを飲ませる店で、季節ものの銀杏をつまみにして一杯だけ飲んだのも、なにかしんみりとしたいい時間であった。
そのほか新連載として、嶋岡晨さんの「詩生活ノート」と榎本櫻湖さんの「現代音楽随感」が注目であるし、「ふきだ詩」の伊武トーマさんと森山恵さんの競演もぜひ見ていただきたいし、秋吉台の音楽セミナー「秋吉台の夏2011」のレポートもたまたま遭遇した機会をとらえた、創造の景色の新鮮さを感じてもらえるのではないか。mmm...のみなさんにはタイトル部分のグループ名のルビでご迷惑をかけたが(正しくは「エムエムエム スリードッツ」)、快くインタビューに応じて下さったことに感謝。往復書簡は詩の朗読をしている川村龍俊さんと作曲家の後藤國彦さんにお頼みしたが(お二人は組んで「目から耳へ」という催しを行っている)、非常に熱心に取り組んで下さり、今回はたとえば第一信は○○行と各書簡の行数をあらかじめ定めて、それに厳密に従って書いていった(私の要求ではなくお二人の提案である)。この往復書簡の生成の過程をはたで見ているのはとてもスリリングであった。
「瀧口修造残像」は2回目だが、次号も続く予定となった。いま千葉市美術館で「瀧口修造とマルセル・デュシャン」展が行われているのでぜひご覧いただきたい。
最後に。「雲遊泥泳」で蝦名泰洋さんが、阿部日奈子さんと川口晴美さんに触れているが、これは一時期蝦名さんと私の間で阿部さんの最近の詩「家族日誌」が“ブーム”だったことがあったのと、また手応えのある詩はないかと聞かれ、たまたま「詩で描く新世紀地図」の企画を準備していた頃だったから川口さんの詩集『半島の地図』の冒頭の作品「サイゴノ空」のコピーを渡して読んでもらったことに由来している。それにしても蝦名節の文章は独特、生彩ありますね。
昨年11月からこの1月にかけて、洪水9号の編集、湯浅譲二・川田順造両氏の『人間にとっての 音⇔ことば⇔文化』の制作、そして自動車免許を取るために教習所に通うというやっかいな用事が重なり、目が回るようだったが、なんとか終えられて、一区切りがつき、ほっとしている。
(池田康)

「洪水」に毎号書いて下さっている玉城入野さんが出版社を始めた。社名は、いりの舎。このたび、第一号の出版物を送っていただいた。佐藤祐禎歌集『青白き光』である。写真でご覧の通り、小さな文庫本になっている。この歌集はもともとは平成16年に発刊された、その再版だそうである。本体価格667円+税。佐藤氏は福島県双葉郡の方で、現在は原発から退避していわき市にお住まいとのこと、あとがきからわかる。8年前に編まれたこの歌集は反原発の主張が軸になっているとのことで、「ニンゲンの終焉がいつか必ず来ることはわかっているのだから、それがこの核開発によるものだろうと私は信じて疑わなかった。そして、その警鐘の歌を中心とした第一歌集『青白き光』を上梓したのである。世界中のどこかで必ず事故は起こると確信してはいたが、かく言う私の地元になろうとは、夢にも思っていなかったのは不覚だった」と書いてあるのは、実感そのもの。カバーに刷られた一首:
春風社から昨年二月に出た上記の本、「洪水」9号でできれば紹介したいと、かなり読み進めてはいたのだが、詩集を主にして筆を進めていったこともあり、残念ながら及ばなかった。それでさっそくこのブログで報告したい。