2012年01月28日

洪水9号

kz9.jpg「洪水」9号が出来上がった。ぼつぼつ執筆者や送った人から反応が返ってきているが、おおむね歓迎されているようで、嬉しいかぎりだ。詩の方に重心を置いた号になったが、詩人の人たちには入って行きやすかったかもしれない。
作曲家の中川俊郎さんに登場していただく新企画「coconi utao」の第一回がまず見開き2ページで現れる。中川さんとは江古田の喫茶店「ぶな」で何度もお会いして、どんなページにしようかと相談した。まず題材の詩作品になにを選ぶかから始まり(これに相当時間がかかった)、選んだ作品(谷川俊太郎さんの「モーツァルト、モーツァルト!」となったが、これが構成がとんでもない詩なのです)をどう捉えるか、作曲の過程をどういったレイアウトで提示するか、と迷い始めたらきりがないことを迷いながら決めていき、まず一回目の試行ということで、時間もないし、ままよとやってみた。いかがだったか。次回はさらに面白くしたいと考えている。はたして演奏まで行き着くのか、それは運を天に任せて…。
川口晴美さんに作品を選んでもらい、解説文も書いていただいた「詩で描く新世紀地図」、時代の息吹をはらみ新しい視野をひらく珠玉七篇は、どう受け取られているだろうか。須永紀子さんの「ジェネシス」は以前川口さんと渡邊十絲子さんにお頼みした「詩の筏」でじっくりと読んだ作品で、思い出深い。そのほか、暗部に降りて行くようなもの、現実のひんやりとした感覚を呼び起こすもの、苦み辛みが刺激的なもの、悟りのような境地を示唆するかのようなもの、夢を見ているかのような不思議なリズム感覚のもの、それぞれに特色があるが、こうして七篇を並べてみると川口さんの詩に対する愛情と期待、味覚の志向と可能性の捉え方がはっきりと伝わってきて嬉しく、詩を読む、ということの最新かつ絶好のヒントがここにあると言えると思う。
野村喜和夫さんによる安藤元雄さんへのインタビューは、中堅以上の詩人の方々がとても喜んでくれているようだ。大森駅から歩いて5分のところにある喫茶店ルアンで2時間にわたって行ったが、評論集で安藤さんの仕事を論じたことのある野村さんだけあって、非常にうまく組み立てて下さり、たくさんの興味深いお話を引き出していただいたと思う。インタビューのあと、駅に戻り、山王側に面したビールを飲ませる店で、季節ものの銀杏をつまみにして一杯だけ飲んだのも、なにかしんみりとしたいい時間であった。
そのほか新連載として、嶋岡晨さんの「詩生活ノート」と榎本櫻湖さんの「現代音楽随感」が注目であるし、「ふきだ詩」の伊武トーマさんと森山恵さんの競演もぜひ見ていただきたいし、秋吉台の音楽セミナー「秋吉台の夏2011」のレポートもたまたま遭遇した機会をとらえた、創造の景色の新鮮さを感じてもらえるのではないか。mmm...のみなさんにはタイトル部分のグループ名のルビでご迷惑をかけたが(正しくは「エムエムエム スリードッツ」)、快くインタビューに応じて下さったことに感謝。往復書簡は詩の朗読をしている川村龍俊さんと作曲家の後藤國彦さんにお頼みしたが(お二人は組んで「目から耳へ」という催しを行っている)、非常に熱心に取り組んで下さり、今回はたとえば第一信は○○行と各書簡の行数をあらかじめ定めて、それに厳密に従って書いていった(私の要求ではなくお二人の提案である)。この往復書簡の生成の過程をはたで見ているのはとてもスリリングであった。
「瀧口修造残像」は2回目だが、次号も続く予定となった。いま千葉市美術館で「瀧口修造とマルセル・デュシャン」展が行われているのでぜひご覧いただきたい。
最後に。「雲遊泥泳」で蝦名泰洋さんが、阿部日奈子さんと川口晴美さんに触れているが、これは一時期蝦名さんと私の間で阿部さんの最近の詩「家族日誌」が“ブーム”だったことがあったのと、また手応えのある詩はないかと聞かれ、たまたま「詩で描く新世紀地図」の企画を準備していた頃だったから川口さんの詩集『半島の地図』の冒頭の作品「サイゴノ空」のコピーを渡して読んでもらったことに由来している。それにしても蝦名節の文章は独特、生彩ありますね。
昨年11月からこの1月にかけて、洪水9号の編集、湯浅譲二・川田順造両氏の『人間にとっての 音⇔ことば⇔文化』の制作、そして自動車免許を取るために教習所に通うというやっかいな用事が重なり、目が回るようだったが、なんとか終えられて、一区切りがつき、ほっとしている。
(池田康)
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2012年01月26日

新井豊美さん

新井豊美さんが亡くなられた。半年ほど前にはしっかりした文字を書かれていたのに、突然というほかない。本誌「洪水」のよき理解者、力強い応援者でいて下さった。有働薫さんが花椿賞を受賞されたときの授賞パーティーでは、ごったがえす人ごみのなかで私を見つけて下さりお声をかけて下さったのが、強く印象に残る有難い出来事だった。なんとも残念であるが、詩を一篇いただけた(8号に掲載)のは、僥倖の賜り物であった。ご冥福を祈ります。
(池田康)
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2012年01月23日

『人間にとっての 音⇔ことば⇔文化』

otokotobabunka.jpg湯浅譲二、川田順造両氏による『人間にとっての 音⇔ことば⇔文化』が完成した。これは、お二人が18年前に「ポリフォーン」という雑誌に公表した往復書簡を基にして、それに「洪水」8号に掲載した対談、そしてその後、昨年9月に湯河原の川田氏のお宅で行った二回目の対談を後半に収めた一冊だ。(税込1260円)
往復書簡の部分は、川田氏は当時調査のため滞在していた西アフリカで、湯浅氏はカリフォルニア大学に教員として勤めていた頃に書かれたもので、日本の風土を離れた、クリアな眼差しの相対性をもって考察がすすめられ、日常生活の狭苦しさに囚われている身には啓発されるところが非常に多い。とくに自然と人間の関係が論じられるところは昨年の大震災にも通じるものがあり、20年近く前に書かれたものながら異様な迫真性を帯びる。後半に収めた対談では、時間というものについて生活の時間と芸術の時間のあり方が突っ込んで語られる部分とか、ダンスとエクリチュールの対比とか、非常に興味深い。私は個人的には宗教諸派の「聖典」を見事に相対化する思考に(詩は理想的には聖典のようになるべきだと思っていたところもあったので)目覚ましい思いがした。
現代日本を代表する作曲家と人類学者が半世紀を超える豊かな経験をもとにがっぷりよつで語り合うひりひりした緊張感を味わっていただきたい。
さて、この本は洪水企画の新書判シリーズ「燈台ライブラリ」の第1巻として刊行される。このシリーズは、詩歌という狭い文芸ジャンルにとどまらず、文明を問い、思想の構築を目指すという広い視野のもとに編集される。カバーのうしろのそでに「燈台ライブラリは、今日のわれわれ、次世代のわれわれ、そしてこれから千年のわれわれの、文明構築の原理を考え、文化創造の視野を刷新する、その標となる灯をかかげるために編纂されます」というモットーを表明していて、どれくらい実現できるかわからないが、とにかくそれを目指して刊行を続けていくつもりである。
(池田康)

※なお、この本にはいくつか誤植が見つかっているので、すでにお手元に本がある方は、下記をご覧いただき、訂正箇所を確認していただけますようお願いいたします。

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2012年01月21日

洪水9号訂正2

「洪水」9号、さらに間違いが二つ見つかったので、お知らせします。

6頁8行目
一〇光万年→一〇億光年

34頁本文1行目
ペンチ→ベンチ

深くお詫びし、訂正いたします。
(池田康)
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2012年01月18日

洪水9号の訂正ひとつ

「洪水」9号ができあがり、近く詳しくここで紹介するつもりだが、間違いがひとつ判明したので、取り急ぎお知らせしたい。64ページからインタビュー記事で紹介している音楽グループ「mmm...」のよみだが(記事タイトル部分)、「スリーエム スリードッツ」ではなく「エムエムエム スリードッツ」が正しい。深くお詫びするとともにつつしんで訂正いたします。
(池田康)
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2012年01月15日

14日川田順造さんのシンポジウム

湯浅譲二・川田順造著『人間にとっての 音⇔ことば⇔文化』が完成した。詳細は項を改めて紹介するが、この本のお披露目、初売りのため、14日上京した。この日は朝7時の中央高速道路経由の長距離バスに乗った。主に山間を通るこの道、風景がよく、高い山々が連なる偉容を眺めていると、昨日までの腹立たしい諸事やつまらない悩み事を忘れてしまう。湖畔が雪をかぶった諏訪湖の姿も印象的であるし、遠方に現れた(東海道側が表としたら、裏側の)富士山の姿が南に向かうにつれだんだん大きくなってくるのも新鮮な驚きだった。
午後1時すぎに新宿到着。都営新宿線で森下駅へ。ここから徒歩で8分の森下文化センター(「のらくろ」田河水泡の記念館にもなっている)で、川田順造さんの新著『江戸=東京の下町から 生きられた記憶への旅』(岩波書店)の刊行を記念するシンポジウムが行われるのだが、その会場ロビーで岩波の本が販売される隣で、できたばかりの『人間にとっての 音⇔ことば⇔文化』も販売させてもらった。
シンポジウムの登壇者は川田さんのほか、佐々木幹郎、小池昌代、陣内秀信、関戸淳一(司会)の各氏。話の内容は、東京下町で暮らすこと、本所深川の特徴、水とともにする生活、というテーマを軸に、歴史を何百年も遡り、また山手や関西など他地域さらには外国まで視野を広げつつ、縦横に議論が交わされ、爽快な刺激を受けた。二百人ほどの熱心な聴衆が来場したこともあり、本も予想以上に売れて、安堵した。
共著者の湯浅譲二さんも会場にみえて、新しい本のすばらしい誕生祝いの日となった。懇親会、二次会のあと、新宿から出発の深夜バスで帰宅。今月の最重要スケジュールが無事終了した。
さて本日、待ち遠しかった洪水9号が完成して、手元に届いた(関係諸氏に感謝!)。発送の第一陣は明日以降になります。
(池田康)
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2012年01月11日

『江戸=東京の下町から』出版記念シンポジウム

文化人類学者の川田順造氏が、自身の出身地である深川をフィールドに、古老や商家の婦人への聞き書き、水運、陸運や町人文化の考察など、人類学的視点から著した『江戸=東京の下町から 生きられた記憶への旅』(岩波書店)の出版を記念して、下記の通りシンポジウムが開催されます。その会場で、このたび洪水企画から刊行されます、湯浅譲二・川田順造著『人間にとっての音⇔ことば⇔文化』(燈台ライブラリ1)も販売しますので、ぜひお出かけ下さい。(もちろん小生も参加して売子をやります)

日時:2012年1月14日(土)15時〜17時30分

会場:森下文化センター2階多目的ホール(江東区森下3−12−17、電話03−5600−8666)
地下鉄森下駅、清澄白河駅、菊川駅から徒歩8分

出演:川田順造、小池昌代、佐々木幹郎、陣内秀信、関戸淳一(司会)

定員:250名(無料・先着順) 

申し込み:森下文化センターへ電話または窓口で

主催:NPO法人本所深川

(池田康)
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2012年01月10日

いりの舎の第一号出版物

aojirokihikari.jpg「洪水」に毎号書いて下さっている玉城入野さんが出版社を始めた。社名は、いりの舎。このたび、第一号の出版物を送っていただいた。佐藤祐禎歌集『青白き光』である。写真でご覧の通り、小さな文庫本になっている。この歌集はもともとは平成16年に発刊された、その再版だそうである。本体価格667円+税。佐藤氏は福島県双葉郡の方で、現在は原発から退避していわき市にお住まいとのこと、あとがきからわかる。8年前に編まれたこの歌集は反原発の主張が軸になっているとのことで、「ニンゲンの終焉がいつか必ず来ることはわかっているのだから、それがこの核開発によるものだろうと私は信じて疑わなかった。そして、その警鐘の歌を中心とした第一歌集『青白き光』を上梓したのである。世界中のどこかで必ず事故は起こると確信してはいたが、かく言う私の地元になろうとは、夢にも思っていなかったのは不覚だった」と書いてあるのは、実感そのもの。カバーに刷られた一首:
いつ爆ぜむ青白き光を深く秘め原子炉六基の白亜列なる
いりの舎の電話番号は、03-6413-8426。
(池田康)
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2012年01月04日

林浩平著『テクストの思考』

hayashi-textkenkyu.jpg春風社から昨年二月に出た上記の本、「洪水」9号でできれば紹介したいと、かなり読み進めてはいたのだが、詩集を主にして筆を進めていったこともあり、残念ながら及ばなかった。それでさっそくこのブログで報告したい。
A5判で400ページに迫る浩瀚な評論集で、国文学関係の場所に発表されたものが中心となっているように見受けられる。論考の対象は、木下杢太郎、森鴎外、佐藤春夫、宮川淳、萩原朔太郎、瀧口修造、富永太郎、樋口一葉、芝不器男、丸山薫、中原中也、折口信夫、といった文学者たち。朔太郎とか鴎外といった相当にメジャーな対象にも独自な視点から果敢な論の展開が試みられているが、読んでいてなんとも鮮明で魅力的に感じたのは、丸山薫、芝不器男といった、あまり論じられるのを目にしない詩人たちの章で、丸山の「物象」、不器男の「ユートピア」、それぞれレンズの焦点がぴたりと合った論じぶりで、めざましかった。冒頭に置かれた木下杢太郎論も力強く、この文学者の仕事に親しんだことがこれまでなかったので余計に興味深く読んだ。タイトル「「硝子」の詩学」が示す通り、ガラスという物質が近代社会で帯びることになった魅力、イメージの光彩を細やかに追求していて、なるほどと思わせられる。この論の延長でデュシャンの「大ガラス」も論じるならどうなるかと、夢想した。
以前うかがったところによると、もともとは中世の短歌が文学研究の中心的対象だったということで、この本でも折口信夫や穂村弘が論じられているが、短歌に関する評論もさらに読んでみたいものである。
昨年末に開催した「オリーヴ会議2」にも参加して下さった林さん、そのときに世田谷文学館の萩原朔太郎展にちなんでのロック・コンサート!の模様も聞かせていただいたが、今年もますますのご活躍を期待したい。
(池田康)
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2012年01月03日

新年のごあいさつ

謹賀新年。毎年正月はダウンしやすい傾向にあり、今年も気の緩みか食生活がイレギュラーになったためか、頭痛と消化器系の不調で、元日から丸二日寝込んだ。ようやく回復して起きられるようになったところ。皆さん気をつけて下さい。
「洪水」9号は今月中旬にできるが、同じ頃、湯浅譲二・川田順造著『人間にとっての 音⇔ことば⇔文化』も完成する見込み。これは洪水企画が新しく始める新書シリーズ〈燈台ライブラリ〉の最初の巻として刊行される。楽しみにして下さい。今年もよろしくお願いいたします。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 13:43| Comment(0) | 日記