2017年05月31日

ガリバルディ

何年も前からイタリアの英雄ジュゼッペ・ガリバルディの伝記を読みたいと思っていた。名前はよく聞くのだがその行動や果たした役割の正確なところがよくのみこめなかったので。夏目漱石の「坊ちゃん」に出てくる「赤シャツ」というあだ名がガリバルディの赤シャツ隊に由来するのではないかという疑問もあり。
しかしながらなかなか適当な本が見当たらなかったのだが、最近幸運にも藤澤房俊著『ガリバルディ』(中公新書、昨年12月刊)を見つけたので、さっそく読んでみた。
19世紀半ばまでイタリアという国はなかった。いくつもの小国に分かれていて、ある国はオーストリアの支配下にあったり、ある国はフランスの息がかかっていたり、ある国はスペインと関係が深かったり、かなりこんがらがっていた。そこからイタリアという国に統一するまでの二十余年の(とりわけオーストリア帝国に対する)独立戦争の過程で大きな役割を果たした何人かのうちの一人がガリバルディで、おもに戦闘の実践面で活躍するのだが、統一の中心となるサルディーニャ王国の首相カヴールや民主革命を志向する政治思想家マッツィーニとの手を組んだり離反したりのややこしい関係が興味深く、またヨーロッパ全体のパワーバランスとのつながりが見えてくると一層面白くなる。
勇名並ぶものなき戦士であり、何度も牢獄にぶちこまれた、愛国者でありコスモポリタンでもあった英雄・ガリバルディの名は神話に類する光輝を帯びて当時のヨーロッパにとどろき、世界に知れ渡った。とりわけイギリスでガリバルディの人気は高く、来訪したイタリアの英雄に対して出迎えの騒ぎは大変なものだったという。明治期の日本でもその伝説的物語は多くの人の耳目をひいたということで、英国留学もした漱石にも届いていたはずだ。
ヴェニスもローマもイタリア統一の過程の最後の最後までイタリアの外にあったという事実には驚かされる。19世紀のイタリア史を辿ることはこの時代のヨーロッパの全体地図を理解するのに非常に役立つだけでなく、国というものがいかに成立しまたいかに崩壊するかを考える上でも貴重な具体的事例となるのだ。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 12:57| Comment(0) | 日記

2017年05月29日

文人精神の系譜を考える

一昨日は林浩平さんのご案内で、茗荷谷の放送大学の一室での上映会に参加した。先日放映された、林さんがガイド・解説者として出演した「文人精神の系譜」という放送大学のテレビ番組の関連の映像を見て話をする会。番組は与謝蕪村、佐藤春夫、澁澤龍彦、吉増剛造という「文人たち」の各々ジャンルを越えた幅広い創造活動を紹介するもので、職業としての作家の枠を超えた文人のあり方には文なるものの放電がある。文人たちの家の中、書斎風景が紹介されたのも「文人精神」の具現化として印象的だった。未放送分の映像もたくさん見せてもらう。制作の楽屋話も発想の時点まで遡っていろいろあり苦労がしのばれた。吉田文憲氏も来ていて、まいまいず井戸を主題にしたGozo Cine(吉増剛造映像作品)の意味合いや吉岡実の晩年の詩集について卓抜なことを緻密に流れるように講じておられたのも記憶に残った。おまけとして、草川プロデューサーが家紋をテーマにした昔のテレビ番組の一部を見せて下さったのだが、音楽は武満徹が担当していて、「秘曲」を聴く思いがした。
その晩は東京の某所に泊まり、次の日は平井達也さんの手引きでとある句会に参加、おおいに楽しんだ。酒席即吟も経験し、俳句という遊楽道にまた一歩近づけた感じがした。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 14:16| Comment(0) | 日記

2017年05月24日

谷干城

いま「洪水」20号の編集たけなわなのだが、そればかりやっているとアタマがおかしくなるということで、昨年『詩国八十八ヵ所巡り』の打ち合わせで嶋岡晨さんの御宅にうかがったときにいただいた嶋岡晨著『熊本城を救った男 谷干城』(河出文庫、2016)を読んでいた。これは1981年に『明治の人ー反骨・谷干城』というタイトルで刊行された本を改題し文庫化したというもの。坂本竜馬なんかと同世代の土佐人・谷干城(たに・たてき)の生涯を辿る。土佐の上士の家に生まれ、若い頃は尊王攘夷の思想を奉じ、土佐藩の代表として薩摩との密談の席にも加わり、竜馬暗殺の折には事件直後に現場に駆けつけ中岡慎太郎の最期を看取り、維新後は政府要職につき、西南戦争では兵を率いて熊本城にこもり西郷隆盛の軍と戦い、貴族院議員として事あるごとに理財の視点から国家運営をただす厳しい意見を吐き、板垣退助などと比べるとどちらかというと保守派で新聞「日本」の創刊にもかかわったりするが日清戦争・日露戦争では冷静に現実的に非戦論を唱える(「戦争というものは、勇気とか卑怯とかの問題ではなく、金力の強弱である」と言っている)という、きわめて独自の歩みをした人物。何度となく伊藤博文に意見の手紙を出しているところは国政に対する真摯な関心がうかがわれ興味深い。
一般的な歴史叙述は決まりきった視点と流れでなされることが多いが、そうしたオーソドキシーの歴史では主役になりにくい谷干城のような人物を中心に据えて語られるとこれまで見たことがないような歴史風景がいろいろ現れてくるのが新鮮だ。
乃木将軍は詩人としても知られているが、硬骨の古武士・谷干城も詩を多く書いており、巻末にその一部が収められている。

 土州の山水、天下無し。
 吾廬の風景、土佐は無し。
 先生、独坐し、友人無し。
 酒有り、独酌す、美人無し。
 笑いて青山に対す、邪念無し。
 歴史万巻、詩集無し。(後略)

(池田康)
posted by 洪水HQ at 11:46| Comment(0) | 日記

2017年05月10日

久保田早紀、精緻な旅情

わが最近のmusic life……
ラジオで紹介されていて気になったオーケストラ・バオバブ(セネガルの音楽集団)の新譜『ンジュガ・ジェンに捧ぐ』を聴く。キューバ音楽の影響もあるということだが、アフリカ音楽特有のまっすぐに疾走する感じも共存している。1970〜80年代の全盛期の演奏を集めたという作品集も出ていて、聴いてみたが、今回の新譜もそれと同じくらい良く、むしろ凌いでいると喜んだり…
先日のノラ・ジョーンズの来日コンサートを聴きに行き、堪能したが、とりわけピアノの弾き語りの曲での、恋人同士が抱き合っているような、歌とピアノの高次元で融け合う法悦に悶絶したり…
4月だったか、美空ひばりを特集したテレビ番組で華原朋美が出演してなんだったか忘れたが難しそうな曲をうたったのだが、遠近と立体感をかんじさせる歌唱で、なかなか上手にうたうなあと感心したり…
NHKFMでラ・フォル・ジュルネの中継を一日中やっていた特番の最後に、フランス国立ロワール管弦楽団がラベルの「ボレロ」をやるプログラムでジャズピアノの小曽根真とトランペットのエリック宮城が加わって、鮮烈な音の悪戯書きをほどこしていく、その異形さに感電したり…
……などなどいろいろあったが、最近は久保田早紀を聴いている。別の歌手のレコードを探しに行って(これは空振り)、この人の1stアルバム『夢がたり』(1979)を見つけ、入手して聞いてみると収録されているどの曲もそれぞれよくて魅了され、さらに2nd『天界』(1980)、3rd『サウダーデ』(1980)、4th『エアメール・スペシャル』(1981)も見つけてきて、とっかえひっかえターンテーブルに乗せている。第4アルバムはちょっと色合いが違うようだが、三番目までは「異邦人」に通じるようなシルクロード幻想、地中海幻想に導かれていて、象徴性もときに感じさせるその詞(曲によっては山川啓介も参加)の情感をあやまたずすくい取っていくのが旋律家であるこのソングライターの霊妙な耳と指であり、どの曲も音の動きの一つ一つが微細な愛しさ寂しさ哀しさの曲折をよく具現していて何度でも聴き直したい思いに駆られる。単に地理的なエキゾチズムではない、人生のexotica。アレンジは主に萩田光雄が担当している。『サウダーデ』はA面の5曲が本場のポルトガルギターの伴奏がついていて耳が歓喜にふるえる貴重さ(アマリア・ロドリゲスの歌のバックで鳴っているあれだ)。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 20:53| Comment(0) | 日記

2017年05月07日

吉田義昭ライブ2017春

昨日は新宿三丁目のシャンソニエQuiで詩人の吉田義昭さんのジャズボーカルライブを聴いた。プログラムにおなじみの洋楽スタンダードが並ぶなかで、今回の特色は「神田川」など70年代のフォークソングをうたったこと。大丈夫だろうかと我々常連客はちょっと心配or危惧を抱いていたのだが、フォーク調ではなくオーソドックスな歌謡の姿でいい雰囲気でこなしているように思えた。
ピアノ一台を伴奏にうたうのは初めてとのこと。久富ひろむさんのピアノは指先のマジックによる繊細な芸というのではないのだろうが、一音一音確実に仕事を成し遂げていくかんじの聞き耳を立てさせる演奏だった。
そんなに大きくもないこの地下の店に鮨詰めのようにして四十人くらい入っていた。
このゴールデンウィーク、前半は頭痛にしのび寄られて半分寝ていたようなものだったが、後半は回復、好天の土曜日にはこうして外出もできて、ありがたいことだった。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 14:39| Comment(0) | 日記

2017年05月05日

詩素2号

詩誌「詩素」2号が完成した(洪水企画刊、A5判72頁、500円)。今回の参加者は、海埜今日子、北爪満喜、酒見直子、沢聖子、菅井敏文、大家正志、たなかあきみつ、南原充士、二条千河、野田新五、八覚正大、平井達也、平野晴子、南川優子、八重洋一郎、山中真知子、山本萠、吉田義昭の皆さんと小生。特別企画の「SYMPOSIUM詩を考える」のページは吉田義昭さんの司会で千木貢・柳生じゅん子両氏に詩とつきあってきた経験話を語ってもらっている。
今回も提出されて集った詩を作者名を伏せて参加者に読んでもらい、気に入った作品を一つ〜三つ挙げていただき、支持が多かった詩を巻頭に出した。ちなみに巻頭は山本萠「詩の文字から」、野田新五「戦争未亡人もんじゃ」、二条千河「証 ──「白」字解」の三作。アンケート回答も掲載している。次号は来年11月に出す予定。
(池田康)

追記
これの印刷をしてもらった七月堂では書店のようなスペースをもうけているとのことで、そこでも見ていただけるようだ。
posted by 洪水HQ at 11:20| Comment(2) | 日記