2017年05月24日

谷干城

いま「洪水」20号の編集たけなわなのだが、そればかりやっているとアタマがおかしくなるということで、昨年『詩国八十八ヵ所巡り』の打ち合わせで嶋岡晨さんの御宅にうかがったときにいただいた嶋岡晨著『熊本城を救った男 谷干城』(河出文庫、2016)を読んでいた。これは1981年に『明治の人ー反骨・谷干城』というタイトルで刊行された本を改題し文庫化したというもの。坂本竜馬なんかと同世代の土佐人・谷干城(たに・たてき)の生涯を辿る。土佐の上士の家に生まれ、若い頃は尊王攘夷の思想を奉じ、土佐藩の代表として薩摩との密談の席にも加わり、竜馬暗殺の折には事件直後に現場に駆けつけ中岡慎太郎の最期を看取り、維新後は政府要職につき、西南戦争では兵を率いて熊本城にこもり西郷隆盛の軍と戦い、貴族院議員として事あるごとに理財の視点から国家運営をただす厳しい意見を吐き、板垣退助などと比べるとどちらかというと保守派で新聞「日本」の創刊にもかかわったりするが日清戦争・日露戦争では冷静に現実的に非戦論を唱える(「戦争というものは、勇気とか卑怯とかの問題ではなく、金力の強弱である」と言っている)という、きわめて独自の歩みをした人物。何度となく伊藤博文に意見の手紙を出しているところは国政に対する真摯な関心がうかがわれ興味深い。
一般的な歴史叙述は決まりきった視点と流れでなされることが多いが、そうしたオーソドキシーの歴史では主役になりにくい谷干城のような人物を中心に据えて語られるとこれまで見たことがないような歴史風景がいろいろ現れてくるのが新鮮だ。
乃木将軍は詩人としても知られているが、硬骨の古武士・谷干城も詩を多く書いており、巻末にその一部が収められている。

 土州の山水、天下無し。
 吾廬の風景、土佐は無し。
 先生、独坐し、友人無し。
 酒有り、独酌す、美人無し。
 笑いて青山に対す、邪念無し。
 歴史万巻、詩集無し。(後略)

(池田康)
posted by 洪水HQ at 11:46| Comment(0) | 日記