2018年09月05日

ハバネラを毎日聴く

メゾソプラノの波多野睦美が映画の中の歌を集めたアルバム『CALLING YOU 〜追憶のスクリーン・ミュージック』をこの夏に出した。共演はギターの大萩康司とベースの角田隆太。おなじみの曲が多く収録されていたので聴いてみた。
クールだとかホットだとか歌手のパフォーマンスを褒め称えることがあるが、波多野睦美はそのどちらでもない、中庸の優美を繊細なバネの作動と眠り/覚醒の間をゆく中間色トーンの歌声の独自のスタイルでつきつめる歌手であり、最近の映画音楽でも三百年前の古典曲であるかのように気品ある姿に仕上げるその典雅さが魅力だ。しかしまた「イパネマの娘」「クライ・ミー・ア・リヴァー」「コーリング・ユー」などを聴くとジャズにも入っていけそうな隠微な雰囲気も感じる。
歌劇「カルメン」の「ハバネラ〜恋は野の鳥〜」も収録されていて、芯の静謐さを特長とするこの歌手にはミスマッチのようにも思われたが、聴いてみるととてもよく、能の清浄な空気があると言っては言葉が過ぎるだろうけど、涼しげな風が吹いているようだ。「カルメン」は色彩強烈な音楽なので聴くのは年に一回くらいで十分だと思うのだが、この「ハバネラ」なら毎日でも聴きたい。その前に置かれた「アイルランドの女」もフレージングが的確に寂寥の形を洗い出していてシンプル極まるところの美しさがある。
大萩康司のギターも超絶技巧を披露するわけではないが一つ一つの音のタッチがものを語るようで、聴き入る。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 19:09| Comment(0) | 日記