2019年03月05日

なくしもの

《其之一》いいアイデアを思いついても放っておくと三十分後にはすっかりそのことを忘れてしまっている。メモしておけばいいようなものだが、それをまめに実行することはなかなか難しい。そうなると、いいアイデアが浮かんだということは思い出すのだが、どういう内容だったかはどうしても思い出せない。あれらの失われた着想たちはどこへ行ったのだろうか(パラレルワールドの第二のボクがそれを活用して傑作をものしている?)。もっともメモに書き留めても活用されず死蔵状態になっているものも少なからずあるのだが。
《其之二》最近ビニール傘をなくした。もともとは四本持っていて(出先で雨に降られてビニール傘を買うことで自然に増える)、骨が折れてしまって二本捨て、残り二本になっていた。そのうちの一本のビニール傘をどこかに忘れてきてしまったらしい。あれ、玄関に一本しかないと気づく。ビニール傘の不思議なところなのだが、驚いたことに消失に三日ほど気づかなかった。存在の希薄さ、幽霊のようだ。突飛な発想にも聞こえるが、両者の間にクラゲを置いてみると流れがスムーズになるような気がする。ビニール傘→クラゲ→幽霊。いつの間にかやってきていつの間にか消え去る。ビニール傘に「くらげがさ」という愛称を献呈したい。
《其之三》数日前、パソコン上でファイルが消えた。イラストレータでちょっとしたものを作っていたら急に落ちてしまい、保存処置をしていなかったので、作っていたものがまるごと吹っ飛んでしまった。こんなふうなデジタルデータの喪失は近年覚えがなく、ほんとうに久方ぶりだったので、愕然とした。ソフトによっては急に落ちてもその直前の状態が再現できるものもあるが、イラストレータはこの機能が備わっていないようだ。もっとも本当に「ちょっとしたもの」(いわゆるハモノ)だったので、二時間ほどの茫然自失から気を取り直して、再度挑んだら、二回目は工程を覚えていて速く、あっという間に復元できた。それにしても、あの久しぶりの無常の砂を噛みしめる喪失体験は強烈で、むしろ貴重だったとも言えるかもしれない。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 20:32| Comment(0) | 日記