2020年09月02日

大橋英人詩集『パスタの羅んぷ』

パスタの羅んぷ画像s.jpg大橋英人さんの新しい詩集『パスタの羅んぷ』が完成した。洪水企画刊、四六判上製、88ページ。定価1800円+税。装丁は著者自身の手による。
帯文「寒いから死んでやる/サイレンも骨も知らず、ぼくは長くゴムのように時代を生きて来た。空き缶のように渇いた咳を声を宙へ 花と人と命の絵空ごとを旅してその伸縮を楽しんだ、言葉の詩空間。証明を生きる理由の珠玉の最新作17編。(川上明日夫)」
このベテラン詩人の最近5年の作品17篇を集める。子供時代に遡っての身近な人々にちなむ物語で第一部を、ダリ、ピカソ、ゴッホなどの画家やドン・キホーテなど小説上の人物をモチーフに、骨灰・砂・鉛などややネガティブな世界に多く足を向けたもので第二部を構成する。
詩集名の「羅んぷ」は、もともとは、作品「ピカソの、らんぷと仮面」に出てくる、ピカソの代表作「ゲルニカ」に描かれるランプに由来するのだろうと推測されるのだが、それが大橋さんの頭脳の中で高度にアクロバティックな化学反応を起こして「パスタの羅んぷ」となった模様だ。
読者はまず第一部の悲しいまでに重たい回想風景に胸が苦しくなり、次に第二部の、世界の現代に目を向けた、文明批評の要素も秘めたざらざらした諸篇に歩行の苦悩を経験することになるだろう。
作品引用は第一部の作品から取るのがいいような気もするのだが、この限りなくパーソナルな詩を気軽に引用していいのかという畏れも覚えるので、ここでは先に挙げた「ピカソの、らんぷと仮面」を紹介する。

 火じゃない
 炎じゃない
 私が問うのは
 ピザのようななまぐさいひづめ
 そのとっ先 ダチョウの足のような靴が
 闊歩する
 やわらかなこの世の、きしみ
 あらい砂
 爪とは
 やはり あつくておもいブリキのようなかさぶたであろうか
 こげるほど焼きすぎたかたいピザ
 ひづめも
 靴も
 その、膝がしらほどのはざま
 空きカンやビンであっても
 フライパンのように
 ランプのように
 ピザもパスタも
 笛の一つも 凶器のようなものだから

   アーちゃん、ボクはきっと
   ピカソのような 大きなおなかを
   まっかな空に描いてみせるよ

 あおむけの人形のような
 土かもしれない
 手足のような
 花かもしれない
 リアルなひまわりと凶器のらんぷ
 みぞとはいわぬ 人骨とはいわぬ
 さだかでない二つのらんぷ
 ま昼から
 いくたの仮面
 私は ただ
 その、とがったひづめの鼻で
 あまたの靴の、
 ピザとパスタを

(池田康)
posted by 洪水HQ at 14:29| Comment(0) | 日記