2020年11月19日

佐藤聰明『幻花 ──音楽の生まれる場所』

幻花画像ss.jpg作曲家・佐藤聰明さんのエッセイ集『幻花 ──音楽の生まれる場所』がこのほど洪水企画の〈燈台ライブラリ〉の第4巻として刊行された。新書判・192ページ・本体1300円+税。
以前、雑誌「洪水」に連載された文章やその第10号の特集「佐藤聰明の一大音」のために書かれたエッセイを中心に、未発表の文章も含めて編纂され今回の本となった。世界的に著名なこの作曲家の最近十年ほどの思考の粋がここに凝縮されていると言ってもいいだろう。それとともに、この百年で書かれた最も厳しい音楽論にして芸術論ではないかとも思う。
巻頭に置かれた「幻花 ──音楽の生まれる場所」と最後の「花はなぜ美しい」はこの本の核をなす二篇であり、宗教や人類学の領域にも踏み込みながら音楽の本領を苛烈に探求する。これらを読めば作曲家佐藤聰明の現在の精神の在りかがおおよそ判るのではないか。「詩と呪文」は詩と音楽の関係について考え、「気配ということ」では能という日本独特の特異な演劇ジャンルの魅力の深みを語り、「映画、舞踊、そして音楽」は映画やダンスのために音楽を作曲した経験を回想しながら太古における舞踊と音楽のありようを幻視し、「歌うということ」は音楽創造の真の厳しさを理論でなく実地の位置から伝え、「青春 一」「青春 二」では若い頃の切なくやりきれない思い出を甦らせる。この一冊を読めば、道なき道を歩いてきた一人の音楽家の内側にどんな広大無辺で豊饒な世界が広がっているかがわかり目眩を覚えるだろう。ぜひご注文いただき、手に取ってお読みいただきたい。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 09:49| Comment(0) | 日記