2021年02月14日

『八重洋一郎を辿る』読売新聞の書評欄に

本日の読売新聞の書評欄で鹿野政直著『八重洋一郎を辿る』(洪水企画)が紹介されたので、ぜひご覧いただきたい。評者は、大原哲夫氏。シーサーにはさまれた本の写真の下に「歴史の重圧に踏みにじられ、さいなまれ続けた者にとって「生」とはなんであったか。石垣島に生まれた詩人の魂に触れる。地球より重い一冊。」との言葉がある。
鹿野氏の専門は日本近現代思想史。歴史研究ではあるが、特段の意図をもって思想を研究するという点で通常の歴史学とは違っているようで、いかなる考えと価値意識と戦略がそこに動いているかを調べながら歴史の推移を分析するところに氏の特異性が出てくる。思想とは、ある正義(価値観)を組み上げる建築術であり、けっして絵に描いた餅ではなく、思想が最大限に発動するとき社会全体の人間の生活が根底から左右される。従って思想史研究は常に危険区域に足を踏み入れ、ときには大変な修羅場に身を置くことにもなる営為なのだ。強者の思想は弱者をものの数ではない存在として虐げる。いい加減な国策思想は国をあらぬ方向へ導き座礁破綻させる。イデオロギーが無辜の脳を焼く。マジョリティの無自覚な〈普通〉なる思想は少数者を圧迫する。支配者の強引な思想には、民衆は奇想天外のゲリラ的思想をもって搦め手から立ち向わねばならないときもある。正義の建築術としての思想のさまざまな諸相、法的正しさの名の下に生起する有象無象の理不尽が、たとえば氏の『沖縄の戦後思想を考える』(岩波現代文庫)などを読んでいると判然と見えてきて、戦慄しため息をつく仕儀となる。
そして鹿野氏は思想の生々しい発露を文学作品に認めることが多く、この『八重洋一郎を辿る』はその追跡が思いの外の遠路となり一冊の本に実ったものだ。
posted by 洪水HQ at 09:05| Comment(0) | 日記