
この本は最初〈詩人の遠征〉シリーズに入れることを考えたのだが、188×120ミリのこのシリーズの判型で組むと頁数がとんでもなくかさばるので、このシリーズの番外シリーズ〈extra trek〉の1巻として、A5判で制作した。〈trek〉は巻頭に置かれた詩篇「(ダウラギリ・サーキット・トレッキングのように……)」に由来している。
装丁は巌谷純介氏にお願いしたが、カバーデザインの二つの楕円の中の野村さんの横顔の写真は、カニエ・ナハさんとの対談の写真撮影の折についでに撮ったもので、装丁の素材として渡したものの、こんな形になるとは驚き。
楕円形は本書のタイトルから来ていると思われるが、なぜ楕円なのか、「あとがき」からそれに関連する部分を引用紹介しよう。
「「みらいらん」連載の対談は、東京世田谷のわがカフェ「エル・スール」で行われた。コロナ以前には公開形式であったと記憶する。カフェにはアンティークな趣の長楕円形のテーブルがあり、私たちはそのテーブルを囲んで語り合ったが、考えてみれば、二つの中心をもつ楕円は、まさにディアロゴス(対話)のあり方を図形的に象徴するようなところがあろう。タイトルに楕円という語を入れたゆえんである。」
また、カバーの袖には次のような紹介文を置いた。
「詩人・野村喜和夫が哲学者、美術家、作曲家、そして仲間の詩人たちと交わす12の対話篇(ディアロゴス)。二つの中心の力学作用が描く図形はあるいは文学の常識の底を破り、あるはジャンルの垣根を越えて遊行、生の声のぶつかり合う緊張と波乱を勢いにして唯一無二の思考の現場を創造するだろう。」
扱われるテーマの幅広さをおわかりいただくために、目次の並びを下に再現してみる。ちょっと読んでみたいと感じていただければありがたい。
【@ 野村喜和夫の詩と詩論をめぐって】
vs小林康夫 閾を超えていく彷徨 詩と哲学のあいだ
vs杉本 徹 言の葉のそよぎの生起する場所へ
【A 異分野アーティストを迎えて】
vs北川健次 共有する記憶の原郷に響かせる
vs篠田昌伸 〈詩と音楽のあいだ〉をめぐって ゲスト=四元康祐
vs石田尚志 書くこと、描くこと、映すこと
【B 詩歌道行】
vs有働 薫 現代フランス詩の地図を求めて
vs福田拓也 『安藤元雄詩集集成』をめぐって 特別発言=安藤元雄
vs阿部日奈子 未知への痕跡 読む行為が書く行為に変わる瞬間
vs江田浩司 危機と再生 詩歌はいつも非常事態だ
vs広瀬大志 恐怖と愉楽の回転扉
vs杉本 徹 ポエジーのはじめに散歩ありき
vsカニエ・ナハ 二十一世紀日本語詩の可能性
コロナウイルス感染が始まってからは無理になったが、「みらいらん」の対談はイベントとして聴衆をカフェに招き入れて開催していた。そのときの熱気がなつかしい。
(池田康)