昨日、Ayuoさんのコンサート「色を塗られた鳥、時空を舞う」を杉並公会堂小ホールで聴いた。曲目は、足立智美作曲「蝶が猿とあくびする(パーヴェル・ハースに倣って)」、中村明一作曲「月白」、Ayuo作曲の組曲「色を塗られた鳥、時空を舞う」の3曲。
「蝶が猿とあくびする」はパーカッションと弦楽四重奏が軽快に音を刻む(合わせるのが大変そう)第一楽章と、歌声が語りの要素を残したユニークな形を描く第二楽章とからなる。ここで終わるのか、もう一つ二つ楽章があってもよいのにという気もした。
「月白」は尺八と弦楽四重奏の曲。最初は現代音楽ハードコアといったかんじで油汗が出かかり、次のパートでは柔らかでなごやかな弦楽合奏、その次のパートでは尺八が本来の強い響きを発し……といったかんじで展開していく。中村氏がこれを作曲したのかと、そのことに恐れ入った。
「色を塗られた鳥、時空を舞う」は一時間にもわたる大曲で、ある程度物語に沿った音楽の展開になっているようだ。映画「異端の鳥」(2019、バーツラフ・マルホウル)からモチーフをもらってきているということで、この映画については、弊社刊の高橋馨詩集『それゆく日々よ』収録のエッセイで論じられていたので知っていて、映画そのものも見ている。東欧と思しき場所での一人の少年の過酷な運命を描き、Painted bird=異端者の苦難を見つめる。この作品を取り上げたのは、Ayuo氏自身がアメリカでも日本でもマイノリティの側にいると感じているからなのかもしれない。
Ayuoさんの音楽の特徴は、私が受ける印象では、自然で明るい、ということだろうか。奇をてらったり小賢しくこしらえたり無理をするかんじがなく、おおらかに素直に音が運ばれてゆく、その心地よさが根本のところにあり、その上で、ところどころでアナーキーにカオス的に音が飛び交いぶつかり合う場面が出てきて虚をつかれたりする、その効果もある。天性の素心の明るさについては、特に最終楽章の全員での合奏が曲全体をまとめるためもあってか、あたかもハ長調の基本和音を最終的に志向しているかのような健やかな明るさに満ちていて多幸感があった。非常に惹きつけられたのは、ピアノ(高橋アキ)とパーカッション(立岩潤三)と撥弦楽器(チターのような楽器とギター、Ayuo)の三重奏がアラベスク模様のような風変わりな楽想を奏でつづける楽章で、ピアノと他の楽器との距離がかなり離れていたのでさらに不思議な感じが増し、なんだこれはと耳をそばだてたことだった。この大曲を構想・実現し、歌も担当して大活躍だったAyuo氏の気合いに驚嘆した夜であった。
(池田康)
追記
「色を塗られた鳥、時空を舞う」の音楽の作り方について、Ayuo氏から詳しいご教示をもらった。
私の軽率でテキトーな評言が読者をミスリードするといけないので、氏の説明を下に引用しておきます。
「Ayuoは調性音楽を書いていなく、中世ヨーロッパの協会モードで作曲しています。それも音楽が先行しているのではなく、英語の言葉のリズムとサウンドが音のベースになっています。ピアノ、アコーディオン、ギターは和音を弾いているのではなく、白鍵盤のクラスターを弾いています。白鍵盤のクラスターと低音の持続音が上と下で動いているのです。ギターもF,G,D,G,C,Dという変則チューニングにして、FとGの単音やCとDの単音がぶつかるようにしています。こうした作りは、日本のポップスにはありません。
最後の曲、Appearancesは調性音楽に耳には聴こえるかもしれませんが、Gから始まるミクソリディア・モードで、持続音がGの単音と5度上のD、それにFの単音と5度上のCが交互に動いています。リズムは5/4、8/4、4/4と変わって行きます。これは英語の言葉のリズムが、そのような拍子に自然にはまるからです。8分音符で3,3,2で歌う部分に3連音符が重なったりします。」