2024年10月20日

谷口ちかえ著『世界の裏窓から ――カリブ篇』

世界の裏窓から画像2.jpg谷口ちかえさんの新著『世界の裏窓から ――カリブ篇』が洪水企画の〈詩人の遠征 extra trek〉シリーズの第2巻として刊行となった。A5判、272ページ、定価2420円(本体2200円+税)。
カリブ文学を紹介する評論集で、袖の紹介文では
「五大陸の交差点と言われる中南米カリブ海域は夥しい数の島を擁し、ハイチやジャマイカ、トリニダード・トバゴといった小さな国々はそれぞれ固有の苦難の歴史を経ており、その特異性や文化の多様性において世界の中でも際立つ。ヨーロッパ諸国の植民地政策の犠牲となった地域であり、その負の遺産は多くの島国が独立を果たした現在でもなお残存しているが、そんな逆境の中から二十世紀後半以降異色の文学が花開くようになる。英領セントルシア出身のノーベル賞詩人デレック・ウォルコットの作品「オメロス」「オデッセイ」などを中心に、カリブの歴史と社会を強く反映し、国家的アイデンティティを模索し、アフリカの悲劇の記憶をしっかりと織り込むカリビアン文学の一端を著者の鮮烈な経験を交えつつ紹介、考察する。」
とまとめている。
谷口さんのカリブ地域との関わりは今世紀に入ってすぐの頃から始まっており、すでに20年を越えている。ライフワークとも言えそうで、その長期にわたる研究努力の結晶がこの本であり、著者の常人離れした情熱(狂熱?)の賜物だ。
内容構成をざっと見てみると、まず冒頭に置かれた「序章として 新世紀の幕開けから現在へ」では、2014年に来日してカリブ詩について講演したエドワード・ボゥ博士の昨年末の逝去のことから筆を起こし、その来日のイベントを中心にして本書のテーマを概観する。
「第一部 連載「世界の裏窓から」―カリブ篇」では同人誌「柵」に2007〜8年に連載したものを中心に新稿も加えていて、この部分が本書の核となる。
「第二部 カリブ海の余波――追補版として」は第一部を補うようなエッセイ類を収録。
「第三部 持ち帰った現地通信―トリニダード・トバゴだより」は2002年に著者がトリニダード・トバゴに渡り、詩人ポール・キーンズ・ダグラスに会い、現地の有名なカーニバルを体験した、軽いタッチの臨場感あふれる紀行エッセイで、写真もたくさん載せていて楽しい。
日本とは全く異なる歴史と気候を持ったカリブの文学にぜひ触れていただき、クレオール文化と呼ばれるものの真実の姿を具体例を通して知っていただければ幸いだ。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 09:16| 日記