2015年09月28日

逗子衣笠ツアー

昨日の午後はタイト・スケジュールで、はじめは神奈川県立近代美術館葉山館で開催されている若林奮展での加納光於さんのトークイベントに参加し、それから夕方に横須賀・衣笠のカスヤの森現代美術館で開かれた高橋アキさんのピアノ・リサイタルを聴いた。前者は岩崎美弥子さんの、後者は土渕信彦さんのご案内による。
若林奮展は彫刻約100点、水彩と素描約140点を集めたもので、この作家の仕事をこれだけまとめて観るのは初めて。加納さんのお話は、出会い、人柄、思い出深いエピソードなどを紹介しながら、彼のうちなる「不穏さ」に焦点を当てるもので、それは死を背負い込む生き物の切実な感覚であり、たとえば「蠅」をモチーフにした作品はそうしたうちなる不穏さ(敵意)の外へ向けての表出である(雛形に対する模型の関係)と考える。さらにこの「蠅」を自分なりに読み解くために若林氏から作品「ハエの模型・飛び方」を一か月ほど借りて、同じモチーフを織り込んだタブロー作品(講演者の横に呈示された)の制作を試みたというエピソードも興味深かった。
高橋アキさんのリサイタルはジョン・ケージとエリック・サティの曲を集めたプログラムで、特に冒頭と最後に置かれた、映像作品と連繋する曲が視聴していて面白かった。一つは、マルセル・デュシャンの短い映像作品にケージが曲をつけたもので(「マルセル・デュシャンのための音楽」1947年)、映像もとても面白くできており、この二人の作家の組み合わせの共同作業を体験できるのは幸運だった。
二つめは、ルネ・クレール監督「幕間」とサティ作「シネマ」(1924)の結合で、この短編モノクロ映画はデュシャン、マン・レイ、ピカビアなども出演している、イメージのシュルレアリスティック・スラップスティックともいうべき、遊びをたくさん含んだ前衛的なもので、ピアノ演奏を聴きながら観るのは非常に楽しかった。最高の贅沢。
演奏された曲はほかに、ケージの「季節はずれのヴァレンタイン」、「ドリーム」、サティの「世紀ごとの時間と瞬間の時間」、「乾からびた胎児」など。サティはダダとは言いながら(妙なタイトルの曲もあり…)どの曲も自然な音楽美、音楽の歓びがあってさすがにドビュッシーやラヴェルと同時代の作曲家だ。
カスヤの森現代美術館の展示は若江漢字・解読された「大ガラス」展の最終日で、これはデュシャンの「大ガラス」をキリスト教の教義や伝説で読み解くような独自の絵をつくる試みであり、それでデュシャンに関係深い作曲家の音楽が演奏されたという訳だった。そして、若林奮の蠅の作品をもとにした加納さんの仕事もそうだし、ケージの「チープ・イミテーション」もそうだが、先人の、あるいは同時代人の作品を取り込み解釈し直して自分のスタイルの中で新たな作品を創るという営みが、この日のかくれたテーマだったのかもしれない。
鎌倉や逗子の海岸ではもう9月末だというのに無数のサーファーたちが波の上で遊んでいた。逗子のサーフィン村といえそうな、専門のショップや宿泊所が並んだ場所にちょっと足を踏み入れてみたのだが、大事も小事もなにも考えない、時計の針を失ったような遊び時間の気が濃密で、こんな雰囲気で一週間もサーフィン三昧の日々を過ごしたら、人生観が変わるとは言わないまでも、生活感覚が相当激変するのではないかと思われた。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 13:38| Comment(0) | 日記
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