2016年01月02日

洪水17号

kz17.jpg誕生したばかりの「洪水」17号を紹介する。今回は小特集が2つあり、その第一は「オルフェウス 詩人と死」と題して、死を凝視する詩作の営為を考える。嶋岡晨さんの「オルフェ復活」はシナリオ詩という形式が新鮮だ。シーン展開の自由自在の飛躍におどろいていただきたい。昨秋に『リルケ 現代の吟遊詩人』を上梓したドイツ文学研究の神品芳夫さんへのインタビューでは、代表作「オルフォイスへのソネット」を中心とするリルケの詩の思考が細やかに分析される。また『証言と抒情 詩人石原吉郎と私たち』を刊行した野村喜和夫さんはツェランと石原吉郎を比較考究する論考を寄せて下さった。どちらの詩人も死に憑かれた面があり、今の時代に直接つながることもあり、直視しなければいけない恐怖がここにはあると言えそうだ。洪水企画の“詩人の遠征”シリーズの一巻として『『二十歳のエチュード』の光と影のもとに』を著した國峰照子さんの昨夏の講演の抄録「原口統三と橋本一明」も収めた。そして小生も安藤元雄詩集『樹下』と清水茂著『イヴ・ボヌフォアとともに』を対象として“全一体験”をめぐるエッセイを書いている。テーマが重く普遍的なだけにどこまでも底なしの地下世界行になりうるが、今回のささやかな試みでも見えてくるものがあるだろうか。
小特集の第二は「ジャズへ一歩」、今まで小誌でジャズを大々的に取り扱ったことはなかったので、このやっかいなジャンルへ初めて挑むということで「一歩」とした。北川朱実「アフリカの打楽器のごとく、」、鈴木治行「〈即興演奏〉というあり方」、萩原健次郎「ジャズ失恋記」、山田兼士「谷川俊太郎とジャズの話」、四釜裕子「ぼくにとって大切なことはいつも〈セッション〉のことである。」、池田康「ひとつの根から多彩な花」という内容構成となっている。ジャズの魅力と性格が少しでも伝わるだろうか、A列車(the quickest way to Harlem)に乗れているだろうか。8月に亡くなった奥成達さんを悼むという気持ちも含んでおり(過去にジャズ特集を考えたときに奥成さんに相談していた)、それは特に四釜さんの原稿に濃く実現していると思う。寄稿いただいた各氏に感謝したい。
他に、森山恵さんの「オペラでシェイクスピア!」、空閑俊憲さんの「瀧口修造の温もり」が新登場だ。どちらも次号に続く予定。10回連載された馬場駿吉さんの“瀧口修造の俳句的表現”の論考「方寸のポテンシャル」は今回が最終回。
ぜひ手に取って御覧下さい。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 13:18| Comment(0) | 日記
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