2016年01月10日

Norah Jones

ノラ・ジョーンズはファースト・アルバム『come away with me』を聴いたことがあり、個性的な味わいのある歌手で、見切ったような中庸を泰然とキープできる統御力の持ち主だなというように承知していたが、ジャンルとしてはジャズに分類されていることを最近知り、「洪水」17号でジャズの特集をやったこともあり、ノラ・ジョーンズにおけるジャズとはなんぞやを探るべくあれこれと聴いてみた。一見フォークぽいところもあり、ポップスの棚に入ってもおかしくないように思われるからだ。ブルーノートから発売されているからジャズ、という安易なことなのだろうか……
まず四作目のアルバム『THE FALL』につかまった。聴いていてなんとも心地よい。文句をつけたくなるような所が見当たらない。何度も繰り返し聴きたくなる拒みがたい誘惑がある。かといってジャズ色が濃いというわけでもないし、どこがよいのか改めて言おうとするとよくわからないのだが、なにか高く達成されているように思われるのだ。「YOUNG BLOOD」、クレージーな詞をとてもクールにうたう。「DECEMBER」など本当にシンプルだけれど本当にいい。犬に向けて語っていると思われる「MAN OF THE HOUR」もユーモアが楽しく、なにか淋しげでもある(ジャケットにも犬が……)。このアルバムの出色の完成度はプロデュース(Jacquire King)の手腕によるところ大なのだろうか。付属冊子の解説を読むと、以前トム・ウェイツのアルバムを手がけた人のようで、「美しさと粗削りとの調和、それにナチュラルな音」が特色と説明されているが、それは『THE FALL』でも当てはまるだろう。
それから戻って第三作『not too late』に来たのだが、このアルバムのデラックス版をたまたま中古で入手したのが幸運で、ボーナスDVDがついており、「sinkin' soon」という曲のミュージック・ヴィデオがとても面白く作られていて見とれてしまった(動画サイトで視聴可能)。この曲、とても変な曲で、詞も変、旋律も変わっていて、ソングライターとしてのノラ・ジョーンズの特異性を考えてみたくなる曲なのだ。
ここで話はちょっと飛ぶが、小島きみ子さん発行の詩誌「エウメニデス」は昨年出した三冊でシュルレアリスムの特集を組んでいてその中で平川綾真智さんがシュルレアリスムと音楽の関係の問題を詳しく論じているのだが(勉強になりました)、私も音楽はもともとその存在が現実でもあり夢のようなものでもあるという点でシュルレアリスティックな要素をそうとう含有していると思っている。そんな一般的傾向の中でも特に強くそういう面を感じさせる曲もあるようで、たとえば前に山下達郎の「DOWN TOWN」をラジオで聴いたとき、うわごとのような詞世界が意識的というよりむしろ潜在意識的なかんじがして、シュルレアリスムの方向を向いているように聞こえたのだが、ノラ・ジョーンズのうたういくつかの曲もそんな面が強いように思われる。詞も変わっているがとくに旋律造型が聴き手に訴える美麗を追求して論理的に構築されているというよりなんとなく自然に意識下から湧き上がってきたような捉えどころのない飾らない断片性でできていて、「sinkin' soon」もそうだが、その気随でぞんざいな有りようがシュルレアリスティックと言えなくもないような気がするのだ……。
この歌手のデラックス版アルバムは入手し甲斐のあるものが多いようで、第一作の『come away with me』のデラックス版にはやはりDVDがついていて、デビュー当時のライヴステージを視聴することができるのだが、ノラはなんとピアノを弾きながらうたっている。それはどのアルバムにもクレジットされていたことだが、このDVDを見るまで気に留めていなかった。このピアノを聴くと、ジャズプレーヤーだということがよくわかる。中学・高校とジャズに夢中になりブルーノートに所属して活動するだけのことはある。とくにアンコールの「テネシー・ワルツ(Tennessee Waltz)」はまぎれもなく高濃度にジャズであり、この演奏がアルバム『Covers』に収録されていないのは残念なことだ(動画サイトで視聴可能)。
五作目『LITTLE BROKEN HEARTS』のなかのいくつかの曲は商業音楽的に作り込んだ化粧の趣きがややあり、今のところまだなじめない。こういうスタイルの音楽があってもよいとは思うが、この歌手が積極的にやることもないような気もする。新しい場所に行こうとする挑戦者はいつもいつも成功するわけではないということか、それとも私の耳が偏っているのか、第一作から第四作のあいだの辺り、そして遡ってテネシーワルツのようなジャズの本然を、活動場所にしてほしいものと願う。音楽生成の生得の素朴さ、染まっていないところ、すぐに傷がつきそうなほどに音楽が裸形であることがこの人の“ジャズ”なのではないかと思うのだが、年齢を重ね経験を積むにつれてナイーブさを維持することは難しくなっていくものなのかもしれない。
(池田康)

追記
「YOUNG BLOOD」はMike Martinとの、「sinkin' soon」はLee Alexanderとの共作のようです。
posted by 洪水HQ at 21:10| Comment(0) | 日記
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