2016年06月25日

マジックはなにをしでかすか

先日、ウッディ・アレンの最新作「教授のおかしな妄想殺人」を観た。ヒロイン(エマ・ストーン)のヴィーナスぶりにびっくりし、人間の根源的なアポリアを巧妙にシナリオに混ぜ込んでくるアレン監督の手業も見所だが、舞台がニューポートでジャズが始終鳴っているのにもときめいた。この映画がジャズの視点からどう語られるかを考えてみるに、一方で男の殺人を法の正義と常識から裁こうとするガールフレンドAがいて、他方ガールフレンドBは殺人だろうがなんだろうがお構いなしに男と生活を共にしようとする、そのAとBの間の心の怖いグレーゾーンをジャズはふーらふらと流れるのだろうと思われた。
さて、そして、その前の作「マジック・イン・ムーンライト」をDVDで観る。うまいねえ。ビリー・ワイルダー並みにうまいのではないか。この作品がそんなに評判になった記憶もないから、こういうのは今どきあまり評価されないのだろう。濃厚な芸術作品やど派手な娯楽作品は注目されても、小粋で上品なウェルメードさを磨き上げる職人的営為は看過される。コメディをコメディとして軽やかに楽しむ文化は衰退しつつあるのか。終盤、主人公の男がトランプの一人遊びをしているおばさんと話をするシーンで、第六感覚的なギアのかみ合い方で対話が優雅に舞うように進むのを見入った。千里眼はなにげないところにある、おばさんマジック最強。百年ぐらい前の時代設定で、その頃の無邪気で賑やかなジャズが、いかしたクラシックカーとともに、楽しい。
追記
舞台は南フランスだが主人公はイギリス人で、オスカー・ワイルドを思わせる皮肉な諧謔を連発、典型的なイングリッシュマンの複雑怪奇な?人間性にまみえることができる。彼らは賢明なのか、度し難い賭け好き冒険好きなのか(イギリスの賭け屋は有名!)、まさに賭けに出たEU残留離脱を問う国民投票でEU離脱が決まり、そちらの派の人間が「インデペンデンツデイ!」と嬉しそうに叫んでいた(ニュース番組で)。キャメロン首相の図らずもの「マジック」は吉を呼んだのだろうか。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 11:27| Comment(0) | 日記
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