2016年10月05日

久保田幸枝著『短歌でたどる 樺太回想』

saharinkaiso.jpg信濃在住の歌人・久保田幸枝さんのエッセイ集『短歌でたどる 樺太回想』(樺太=サハリン、「短歌でたどる」はサブタイトル)が洪水企画の〈詩人の遠征〉シリーズの第9巻として刊行された。戦中から戦後にかけて両親とともにサハリンの豊原(ユジノサハリンスク)で暮らしていた子ども時代の経験を中心に短歌作品を交えのびやかな散文で回想する。今の戦後世代の人間には想像を絶するような風土的特色や歴史的出来事が次から次へと登場してくるので興味が尽きず、また両親に対する思慕、弟妹に対する思いも情深くじんとさせられる。
本書中最大の山は、敗戦から引き揚げまでの苦難を述懐したところだろうか。よく無事に生き延びることができたものと読者もほっと胸をなでおろすことになる。そのあとも信州という未知の地に住むことになり別の種類の困難が待ち受けているわけであるが……
戦中戦後を生きた一人の全身での経験を細やかにうたい記録する貴重な歌物語。
この本の中に出てくる短歌作品のうちいくつかをここで引用紹介する。

 流氷のとどろくころか地球儀にわが生国の海は紺碧
 鰊とつて鮭とつて鰊とつて……北海寓話あしたへ続く
 風化せぬ幼き記憶の一点に照明弾のかがやきがある
 「ユキエサン サンポ タベマショ」小学生わが友なりしかのロシア兵
 サハリンに抑留されし二年生学ばず歌はず描かず四年生
 引揚船「宗谷」のデッキにて手を振りき流氷の上のオットセイらに

(池田康)
posted by 洪水HQ at 14:17| Comment(0) | 日記
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