2016年12月20日

フォークシンガー沢田聖子

洪水19号の特集「日本の音楽の古里」の調査の一環で沖縄(風)の音楽を集めたCD『美ら歌よスーパーベスト』を聴いていた。いろんな人のいろんな曲のアンソロジー。どれもそれぞれに魅力的だが、「ナンクルナイサ」がしなやかで晴れやかさもあり、気になった。うたうのは沢田聖子(しょうこ)。はて、知っているような、知らないような。80年代から活動しているフォークシンガーとのこと。その若い頃の演奏を聴き、この「ナンクルナイサ」が入っているアルバム『心は元気ですか』(2003)を聴き、この盤の充実ぶりから考えるに、この歌手はどうやら40代に音楽家としてのピークが来ているのではないか。これは女性歌手としてとても珍しいことのように思われる。1979〜83年の曲を集めた『アーリーデイズ・ベスト』はまだアイドル歌手のような軽やかで清楚なスイートタッチの歌いぶりで、今聴くとややもの足りない。1993〜95年の曲を集めた『パーフェクト・ベスト』は歌手としての骨格がしっかりしてきているのがわかる。「優しい風」と「本当にサヨナラ」は同じ旋律で違う詞をうたっており試みが面白い。吉田拓郎作「風になりたい」、伊勢正三作「ささやかなこの人生」も両者の味が印象的に聞ける。それが『心は元気ですか』になると更にパワフルになっている感じがあって、自動車にたとえれば、『アーリー…』の80年代は600ccのエンジン、『パーフェクト…』の90年代は1200cc、『心は…』の2000年代は1800ccと、歌唱・ソングライティングとも少しずつ強靭になってきているように思われるのだ。『心は…』は一曲を除いて(「星より遠い」は谷山浩子作)すべて自作である上に、編曲まで自分で手がけている。これは大変なこと、ちょっとやそっとではない努力と精進ぶりだ。ギターやコーラスの使い方など、鮮やかに耳に残る(「Pacifism」など)。「ナンクルナイサ」は冒頭に置かれており、続く各曲もそれぞれ違った多彩な性格で丁寧に作られていて充実している。最後には「息子からの伝言」という曲が入っていて、おそらく9・11のニューヨークテロのときツインタワーの高い階で働いていて死んだ若い男を物語るというなんともヘビーな曲なのだ(コーラス最後の「いのち」の音程のおさめ方にとくに感銘)。これを見事にうたう姿は血にじむバラッドを語りうたうことを伝統とする真のフォークシンガーとしての貫禄を感じさせる。
(池田康)

追記
先日ライヴを聴きにいったが、現役バリバリで衰えを感じさせるところもなく、絶好調だった。
posted by 洪水HQ at 12:04| Comment(0) | 日記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: