2016年12月28日

描線という歌声

映画「この世界の片隅に」の副産の一つは、漫画家こうの史代を広く世に知らしめたことだろう。この映画の原作を読み、そしてやはり広島の被爆を基点にした作品『夕凪の街 桜の国』を読んだ(どちらも双葉社)。絵描きにとって描線は歌声なのだろう。誠実で飾らない、無邪気さと知性と諧謔心を携えた線のタッチにはまがい物でない個性が感じられる。物語のテーマとしては罪業そのものである戦争という巨大悲劇に向かっていくわけだが、その構図をやさしく細やかな地声の描線でつむいでいくところに新味の感銘が生まれてくるのだろう。それほど深刻でない、ごくさりげないシーン、たとえば「桜の国(一)」冒頭の、七波ちゃんが友達にゴエモンと呼ばれているところに後ろから東子ちゃんが来てランドセルからよいしょと縦笛を取り出して♩♫♩と吹いて呼びかけるところなんか、いいなあと見とれてしまう。魅力的な歌声を聴く喜び、そして感謝。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 17:20| Comment(0) | 日記
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