2016年12月31日

洪水19号

19号表紙S.jpg洪水19号が完成した。今回の特集は「日本の音楽の古里」。日本の伝統音楽、邦楽を考えようという試みだ。茫洋とした果てない広がりがある対象で、取り組むのがとても難しい。手近なところから聴くにしても、それを聴くための耳を自分がもっているのか心許ないし、西洋音楽になじんできた人間にとっては語るのが難儀な種類の音楽だ。行き当たりばったりの面も多々あったし、調べ始めるときりがないのだが、発行予定日を断念の区切りにしてなんとかまとめたといった案配だった。
詩人の佐藤文夫さんがすばらしい民謡の評論本を何冊も出していたので、相談したら、山村基毅さんとの対談を企画して下さった。対談当日知ったのだが、佐藤さんと山村さんはなんとこの日初対面だったそうだ。そんなふうには思えないほど息の合った討議を展開して下さった。テーマを知悉している同士だとこんなことが可能なのだろう。お読みいただければ民謡の世界の魅力、民謡にかんする知識と愉悦の豊かさを存分に楽しんでいただけるはずだ。
尺八奏者の中村明一さんへのインタビューは、10号の佐藤聰明特集のときに中村さんに対談でご協力いただき、この夏ソロのコンサートを聴かせていただいたことをふまえて、お願いした。『倍音』という著書で音楽全般および日本の伝統音楽の特質を論理的に詳しく分析しておられる方で、理論的にも実践的にも第一人者であり、とても本質的で深い話が聞けたと思う。
さまざまな視点からの論考は、木戸敏郎、鈴木治行、田中聰、山崎与次兵衛、紫圭子、北爪満喜の各氏に小生。詩は嶋岡晨、篠原資明、山田兼士、紫圭子のみなさん。格別のお力添えに感謝申し上げたい。
また今号の巻頭詩は、藤井貞和、山本萠、松本邦吉、岬多可子、河野聡子、海東セラのみなさんにご寄稿いただいている。
特集の資料のために民謡の古いレコードを相当買い求めた。全集のような企画ものがコロンビアやビクターやキングからたくさん出ていて、それほど苦労することなく手に入る。かなり詳しい解説がついているし、現在のCDには入ってないような二世代前、三世代前の民謡歌手の歌が収録されているので、聴き甲斐がある。レコード・コレクターは試してみてはいかがだろうか。

1月下旬にアンソロジーの本『詩国八十八ヵ所巡り』(燈台ライブラリ3、嶋岡晨編)を出す予定だが、その中に伊藤桂一さんの作品「駐屯生活」も入っていて、戦時中大陸に派遣された兵隊の生活を描いた詩だが、「佐渡おけさ」が出てくるので、その部分を引用紹介する。伊藤さんも今年10月に亡くなり(この本をお見せできなかったのが残念)、その追悼の意味もこめて。戦いのために駐屯地を出る前の晩のこと。
「やがて出発の前夜になるとみんな車座になって生死の盃を酌み、佐渡おけさなど歌ってこころ置きなく酔っ払ってしまう。」

(池田康)
posted by 洪水HQ at 17:34| Comment(0) | 日記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: