2017年03月05日

神原芳之詩集『青山記』出版記念会

上記の会が昨日市ヶ谷アルカディアで開かれた。神原芳之はドイツ文学研究者の神品芳夫さんの詩人としてのペンネーム。今回が第一詩集だという。詩作はここ数年で始められたのだそうで、詩集を出すまでの苦労がステージ挨拶で語られた。一読、前半に収められた戦争にまつわる作品がまず印象に残る。ドイツ文学のイメージばかりが強い神品氏だが、当たり前ながら日本人としてこの時代を生きてきて割り切れない切実な経験をされてきたのだと実感させられる。もっとも鋭いものを感じたのは、昭和20年8月15日の終戦の日をうたった「八月十五日」だ。

 雲ひとつない紺碧の空から真夏の太陽が
 黒ずんだ光を差し込む
 砂浜に現れるわずかな人影がよろけていた

で始まり、第三連は

 路地の隣組ではいつも会う面々に活気がない
 「玉音放送」を聴く
 初めて聞くあの方の声 祝詞のような抑揚

とある。そして第六連。

 駅の向かいの本屋の二階での定例囲碁会は
 中止にならない
 前回負けた借りは返さないわけにいかない

終戦の日に「定例囲碁会」が開かれていたという意外性がとても面白く、人間の逞しさ、バイタリティを思わせるとともにアイロニーのかけらのような奇妙な苦みも感じさせる。
以前「洪水」誌でリルケについてお話をうかがったとき、好きな人ならば神格化してしまいそうなこの詩人について、突き放すところは突き放し、巧みな距離感を維持して語られていたことを思い出す。人間に対し、社会に対して、独自の距離をもった目にオリジナリティがあるとも言えそうだ。
これからは第二詩集を目指すとのこと、一層の充実を期待したい。
なお『青山記』は本多企画刊。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 13:04| Comment(0) | 日記
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