2017年10月02日

杉中雅子歌集『ザ★カ・ゾ・ク II』

thakazoku2.jpg杉中雅子さんの第二歌集『ザ★カ・ゾ・ク II』が洪水企画から刊行された(本体1800円+税)。第一歌集『ザ★カ・ゾ・ク』の内容を引き継ぐという意味でこの命名となった。装幀デザインも色鉛筆をモチーフにしている点が共通する。
第一歌集の流れに沿い、両親、夫、子供たちと孫、祖母、伯母や叔父など家族の人々に対する様々な形の愛情が率直に歌われて短歌として結晶する──それを基軸として、そこにさらに大震災の報道や環境問題や戦争への思いが流れ込んで視野の深化をもたらしており、言葉を通じ、また短歌への愛を通じて家族が世界とつながるという、成熟した歌人の精神の境地がここにはあるように思われる。
「洪水」5号に発表された連作「異空間」が巻頭に置かれていて印象深い。

 茶臼岳にかかれる雲は波たちて吹き来る風はわが肌を刺す
 空中につり下げられし吊橋に命あずけて一歩踏み出す
 吊橋を踏みしめ渡る目交の裸木こぞりてわれにせまり来
 行き違う折しも橋の揺れに揺れ放り出される心地こそすれ
 いつまでも揺れの止まらぬ吊橋に彼岸の母の笑み浮かびくる
 足元の浮き立つ橋にわれありき対岸の滝とうとうと墜つ
 吊橋のすき間より見ゆ渓谷の流れしぶけり岩にくだけて
 橋の揺れにわが身任せる異空間に冬のむら雲張り付きいたり

日常の安穏を離れた不安な心象が映り込んでいる。
家族を詠んだものとしては、

 十二歳に父の買いくれしピアノなり居間の隅にてわれを見守る
 カステラの木箱も古りぬ折ふしに開けて読みおり母からの手紙
 「なあ〜んも、のうなったけん、できたんよ」広島復興を祖母はしみじみ

などがある。三首目は広島の被爆にからんでいてことに印象に残る。
この本はまた、洪水企画が発行だけでなく発売もする第一号の書籍となった(これまでは草場書房に発売をお願いしていた)。そのことも小社としては非常に意義深い。ちなみにISBNは978-4-909385-00-0となっている。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 16:03| Comment(0) | 日記
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