
三尾みつ子さんの詩集『花式図』が洪水企画から出た(1800円+税)。「花式図」とは花の構造を表すシンプルな線描の絵図で、紋様のような魅力もある。タイトル作は子供のころ生物の先生からそれを習ったという体験を語っている。ほかに、家族の詩、友人や恩師の詩、今の生活の経験をもとにした詩などを収める。三尾さんの詩の特徴は、レトリック的な飾りを最小限に留めたさりげない寡黙な語り口で、それが逆に読者に訴える力になっているように思われる。帯には「詩はひたすらに静かであっていいと詩人は考える。飾りを不要とするシンプルな佇まいの中に固有の生の哀歓がこまやかに彫琢され、鎮まることの凄みが楚々としかし不屈に底光りしている。」と記した。合唱を長くやっておられるそうで、声を荒げない美学が人となりを作るところまでいっているのかもしれない、どの詩にも独特の沈黙の表情が感じられる。収録作品のなかで風変わりな強い印象を残すのが「まんなかをあるいていた」で、これを代表とするのがこの詩集の紹介としてふさわしいかは分からないが、以下に引用したい。
マツ子とタケ子は双子の姉妹です
わたしが二人と遊ぶのを大人は感心しません
秋の農繁休み
三人で
営林署の作業場にいきました
午後の陽は心地よく
マツ子 わたし タケ子
ゴンネ山の裾野の軽便道を
谷川の瀬音を聞きながらあるきました
作業場のおじさんと
二人は顔見知りのようで
──おざきせんせいのこだよ
二人同時に言いました
おじさんは驚き
キャラメルを一箱くれました
三等分し
一粒ずつ食べながら
マツ子 わたし タケ子
谷川の瀬音を聞きながらかえりました
夕飯の時は何も話しません
もしも話したら
二人の様子を
作業場の場所を
日暮れまでに帰れなかったらどうしたのかを
母はうるさく聞くだろう
まんなかをあるいていた
マツ子とタケ子のまんなかにいた
わたしが母に言いたかったのは
ただそれだけだったのです
(池田康)