仮面ライダーではないが変身という所作は心が踊る。新聞記者がスーパーマンになったり、お嬢様が夜の女になったり、ピッチャーが四番バッターになったり、しがない工員がダンスチャンピオンになったり、金持ちの男が毒虫になったり、映画やドラマの世界ではさまざまな華麗な変身を見せて観客を驚かせ喜ばせる。フィクションに赴くまでもなく、蛹が蝶になるとか、蕾が花となるとか、水蒸気が雪になるとか、自然界にも無数の変身譚がある。自然と人間の生活が接する面でも数多の変身が遂げられてわれわれの生活を彩っているのであり、楮が紙になる、馬の毛が筆になる、牛の舌が料理の主役になる、オリーブが油になる、海亀の甲羅が櫛になる、鰐の皮が財布になる、水牛の角が印鑑になる、鳥の羽毛が布団になる、狐の毛皮がマフラーになる、土が皿になる、孔雀石が絵具になる……これらも密かな華麗な変身と言えるだろう。こんなことを書いてみたのは、貝からできた釦がごく普通にあることを知ったからで、そう知った上で眺めてみるとなるほどプラスチック製とは艶が違っており、この繊細で高貴な艶の中に海の伝説が隠れていると思うと、小さな釦でも愛しく思えてくる。綿からできたコットン生地に貝の釦がついた服を着ていると一見当り前の恰好なのだが自分もさりげなく変身しているような気がしてくるのだ。
(池田康)
2018年04月23日
変身の驚異
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| 日記
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