
書名はどういう意味なのだろうか。あとがきには「本書には、表土、平面、多摩平といった「平」に関連する言葉が見える。思えば、映画のスクリーンや本のページというのも、平面である。このことは、私の思考が、平地で育まれてきたことを意味するだろうか。」とある。表題作のエッセイ「フィクションの表土をさらって」には「私は、今までこうした映画の見方をしてこなかった。フィクションの表土をさらって、地中深く流れる源流を探り当てるというこの方法は、ともすると映画そのものから視線を外すことにもなるので、あまり好ましくない。しかし、私がこんな見方をしてしまったのも、二〇一一年三月十一日以後を生きているゆえかもしれない。」、「逆説的だが、まずフィクションの表層を信じるという段階を踏んでこそ、虚構を見抜くことができ、その奥に隠された真実を知ろうという思考が生まれる。」という言葉も見られる。ここからも、大震災以後の気組みとして、それまでの自分の美学や考え方から一歩踏み込んで薄暗い苦悶と欲望の〈現実〉の領域で思考を進めようとしている冒険の身震いが感じられる。
そして一冊をテーマとして束ねているのは〈故郷論〉のようだ。映画『トラック野郎』シリーズで描かれる〈故郷〉、島尾敏雄の〈故郷〉、そして自身の故郷観を重ねて、現代人において〈故郷〉がどういう事情のものになっているかが考察される。文明論でもあり人生哲学でもありうるこの考えの筋道が、著者の今後の仕事の中でどんな結実を得ていくのか、とても興味深い。洪水企画刊、本体1800円+税。
(池田康)
追記
本書の書評が福島民友新聞2018年12月22日の紙面に載りました!