2019年07月09日

みらいらん4号

milyren4.jpg「みらいらん」4号が完成した。目次詳細は下記リンクよりご確認いただきたい。
特集・田村隆一は城戸朱理さんの発案で動き出した。結果的にこの特集が充実した形でまとまったことの大部分は城戸さんのおかげである。吉増剛造さんを迎えての鎌倉での対談は思い出深い。内容の濃さはぜひ読んで確かめていただきたいと思うが、私個人としては鎌倉駅前の待ち合わせのとき早く着き過ぎて二十分ほど吉増さんと立ち話をしていたことが思い出に残っている。鎌倉文学館も建物だけでなく庭園も含めてすばらしい場所だった。この特集にご寄稿下さった、新倉俊一、八木忠栄、山内功一郎、田野倉康一、和合亮一、中原秀雪、石田瑞穂、神泉薫、広瀬大志の皆さんにも感謝申し上げたい。
対話の宴「『安藤元雄詩集集成』をめぐって」は今年1月に水声社から刊行されたこの大冊をベースに詩人安藤元雄の詩の世界を野村喜和夫・福田拓也の両氏が議論する。安藤元雄さんは「洪水」誌で計4回ご登場いただいていて大変お世話になっているが、その出発点となったのが、9号での野村喜和夫さんに聞き手になってもらっての安藤元雄さんへのインタビューだった。その7年に及ぶ縁の集大成となったと言える。今回のために万全の準備をして下さった福田拓也さんにも感謝を述べたい。安藤さんご本人の言葉を最後の部分で収録できたのも貴重。
インタビュー〈手に宿る思想〉、今回はフリージャーナリストの古居みずえさんにお話をうかがった。パレスチナの取材を長年のメインテーマにし、東日本大震災以降は福島の飯舘村の取材も継続して行っておられる。三本のドキュメンタリー映画を制作し、著作も多い。フリージャーナリストの仕事とはどんなものかをたっぷりとうかがった。このインタビューでひりひりする「外の空気」を感じていただければ幸いだ。
今号は戦争を大テーマにしてまとめており、特集、対話の宴、インタビューでそれぞれつながってくるものがあると思う。
ほかに、河津聖恵さんの連載詩「神々の檻」が今号から始まる(3回の予定)。音楽家Ayuoさんの連載「言葉と音の間に」も今号から開始。ぜひ注目していただきたい。
表紙の下の方の骨格はパレオパラドキシアと呼ばれる古生代の生き物で、恐竜ではなく哺乳類である。ちょっと調べてみていただけると幸甚だ。表紙後側の卵型の作品(白薔薇の…)は小野原教子さんの作。
(池田康)

追記・書けなかったこと
今回「深海を釣る」の頁で、志田未来作品を中心に多くのテレビドラマを論じているが、視聴する時期が遅くなり言及できなかったものの中に「サプリ」(2006)がある。「浅い男」である父親(佐藤浩市)を「深い男」になるよう教育しようとする小学生なつきを志田が演じていて、小憎らしくいじらしい。父子の関係性が愉快。主人公達の恋愛劇はやや食傷するが。
それから田村隆一特集の最後の「特集おぼえがき」でいろいろ書いたが、一つ書き忘れたことがある。田村隆一の作品で印象に残っている詩があって、しかし見つからず書き入れることができなかった。今回、田村の既刊詩集をすべて読むだけは読もうと努めたが、読む順序もあり、最後の最後まで出てこなかった。「三級ウイスキーを飲みながら」という作品だ(詩集『灰色のノート』所収)。

 三浦半島の最先端
 岩場にひっそりと立っている
 相模亭食堂
 その小さな食堂には大きな薬缶から
 たえず湯気がふきだしていて
 イカ ハマグリ サザエは炭焼き
 古風なガラス窓からは相模の海が一面にひろがり
 燃える夕陽が伊豆半島の天城めがけて落ちて行く

 人間の心も燃えるものなら
 晩秋初冬の世界の中心にむかって落ちて行け
 人間の悲惨は悪魔の至福
 その両極に神の快楽があるならば

 海鵜の舞う断崖まで三級ウイスキーを飲みながら
 歩いて行くがいい

これはどこかの媒体に発表されたのをリアルタイムで読んで、ああこういう詩を書く詩人なのかと深く納得した覚えがある、懐かしい詩。田村隆一のキャリア全体の中に置いて、とくにどうということもないのかもしれないが。
posted by 洪水HQ at 10:59| Comment(0) | 日記
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