ここ三日ほど、寸暇を活用して、録ったまま未整理だったMDを調べ直して整理していた。現在の住所はラジオの電波がいまいちきれいに入らないのでやめてしまったが別の土地で暮らしていた頃はよくFM番組をエアチェックしていたのだ。作業をしながら、シューマンの交響曲を聴きたくなり、4曲をでたらめな順番で聴いていたのだが、最後に追加でかけた彼のピアノ協奏曲の次に、ベートーヴェンの交響曲第7番が録音されていて、ついでに聴いた(ライブだが演奏日不明)。力強い、非常に説得力のある演奏で、心動かされ、演奏者の名前を見たら、バイエルン放送交響楽団で指揮者はマリス・ヤンソンスとなっていた。この名前、最近ニュースで聞いたような気がして、ネットで検索したら、昨年11月死去と出ていた。一流の指揮者と目されていることは知っていたが、ひょっとしたら本当に素晴らしい才能なのかもと思い、この人の演奏を録ったMDがほかにあるか調べてみると、三つほど出てきたのでそれらも聴いてみた。
まず、シベリウスの交響曲1番とブラームスの交響曲1番、これはウィーン・フィルの演奏で、2005年3月6日にウィーンから国際生放送されたもの(NHKFM)。それからブラームスのヴァイオリン協奏曲(Vn:ジュリアン・ラクリン)と交響曲3番、R.シュトラウスの交響詩「ティル・オイゲンシュピーゲルの愉快ないたずら」。これはロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏で、2008年11月12日NHKホールにて(NHK音楽祭2008)。さらにマーラーの交響曲5番、これはバイエルン放送交響楽団の演奏(2006年3月10日、ミュンヘン)。
ライブ演奏だからより強く印象づけられるのかもしれない。ヤンソンスの指揮は、すべての音やフレーズを「科白」のように立て、楽想の流れの理を繊細に見きわめ活かしながら劇的に音楽の世界を作っていくところ、ちょっとオペラのような趣きがあり、それが魅力と説得力になってくるようだ。丁寧で、緻密で、聞き逃さず、弾き流さない。神経をともなった卓抜な展開力で、何度も聴いたはずの曲がとても面白く聴ける。楽譜の音を実際の歌声にするために、ヤンソンスは「必要な人」だった、と言えそうだ。
略歴を見ると、1943年ラトヴィア生まれ。この小国はバルト海に面したバルト三国の一つで、リトアニアとエストニアにはさまれ、ロシアにも隣接している。カラヤンとムラヴィンスキーに師事したとあるから本流の人のようだ。私の所有するCDでは、五嶋みどりのメンデルスゾーンとブルッフのヴァイオリン協奏曲の演奏でベルリン・フィルとともに共演している(ライブ録音)。ただしこれは、ヤンソンスが晩年率いることになる二つの名門オケ、バイエルン放送交響楽団とロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の指揮者に就任する以前の録音。逆に貴重か。
生前この指揮者に特別の思い入れはなかったからこの一文は追悼文という種類のものではないが、今後はこの人の残した演奏は意識して聴くことになりそうだ。
(池田康)
2020年05月06日
マリス・ヤンソンス
posted by 洪水HQ at 22:06| Comment(0)
| 日記
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