2020年07月23日

二冊の小説

最近、二人の女性作家の小説を読んだ。
まず、評判になっていた、ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』(東京創元社、吉澤康子訳)、これはソ連の禁書『ドクトル・ジバゴ』の出版をアメリカ側が冷戦時の作戦とした話。CIAに勤める女性たちのもろもろの喜怒哀楽のエピソードも興味を引かないではないが、やはり作家ボリス・パステルナークとその周りの人々の法外な苦悩が胸に迫る。
もう一つは、ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』(講談社、岸本佐知子訳。フランス装が贅沢)、これはラジオだか雑誌だかで紹介されていたのをかすかに覚えていて、たまたま書店で見つけたので買って読んでみた次第。24篇の短篇小説のアンソロジー。重そうな鑿でためらいなくどんどん彫り刻んでいく豪快な筆致が魅力か。シニカルな意地悪い目、いや、なにも怖れない無敵の目の異様な輝き。タイトル作は、なるほど、ふてぶてしくて面白い。「いいと悪い」はこの難問の話にどうやって結着をつけるのだろうと思いながら読んでいったが、この作者らしくあっけなく現実的な、ゴルディアスの結び目を切るような終わり方になっていた。とりとめのない(詩のような?)小品もいくつもあるが、自伝的要素の濃い諸篇も並んでいて、この人の円満さを欠いた、無茶な傷だらけの人生が垣間見えてくる。暗転という舞台用語は実人生では無限のニュアンスをはらんで地獄の書き割りを動かすことがわかる。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 17:13| Comment(0) | 日記
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