2021年02月17日

八重洋一郎詩集『銀河洪水』

八重洋一郎さんの新しい詩集『銀河洪水』が洪水企画から刊行された。A5判並製、96ページ。本体1800円+税。
八重氏は昨年詩集『血債の言葉は何度でも甦る』を出したばかりであり、ここにきての意力と創造力の漲りに目を見張らされる。以下、帯文。

爆発。私は核爆発のように自らの存在の『核』に触れ、自爆したかった。そして一切をわが身もろともふきとばしたかった。(「ある序文」より)
詩人のリズムが生の謎を解こうとする、その戦慄が根源的抒情の氾濫を導く。

あとがきでは次のように語られる。

コロナウイルスが跳梁し、ついにWHO(世界保健機関)がパンデミック(世界的流行)を宣言する事態となった。その不安の中で日々を過ごしていたが、ある時、ふと「メメント・モリ(死を銘記せよ)」という言葉が頭に浮かび、日が経つにつれて、それが重く伸しかかってきた。
私はこれまで歴史や思想や文学などについて非力ながらも自分の考えを詩の形で発表してきたが、「メメント・モリ」というこの言葉はこれまでの一切を総点検せよと迫ってきたのである。

「総点検」という言葉の通り、氏の社会思想と地誌と人生論と宇宙論と詩論とが渾然一体となった集大成的な詩集となっている。過去の詩業から余韻をとりこんでいる点もその印象を強くする。「豊饒」「まゆんがなす」などのその土地独特の生活の色彩が神々しい詩篇はことに重みがある。「浄夜」の最後の部分を引用紹介したい。

 漆黒深い闇の
 森
 うすよごれ ギリギリにやつれはてた骨と皮
 風は破られ
 すべてを棄ててこもり身の祈る人の魂は
 蝶となって森の上を
 ただよい浮かび その
 羽根は
 天降りくる「言葉」によって光の星座がやきつけられる
 いのりとは?
 ことばとは?
 ひかりとは?
 「わからない」
 もぬけのからとなった人はたおれ
 蝶は森じゅうひらひらとんで
 (すべての星はすべての星と七宝飾りにつながって)
 闇をぬい ひらひらひらひら とぶ
 たびに
 蝶の羽根から ひとすじ ふたすじすじをひき
 星々が 分厚い
 りんぷんとなって
 こぼれふる
 しげりあう枝々ひかり したくさひかり 土さえひかり

 やがて
 森は
 銀河洪水

(池田康)
追記
『詩学・解析ノート』(2012、澪標)は八重さんが数学者&論理学者であり現代物理学にも精通していることを示す論考の本で、決して易しくはなく、通読しても半分はわかるような気がするが半分は理解を超えている、そんな理論的な高度を最初から最後まで維持しているが、今回の詩集に通じるような洞察や世界観もすでにさまざまに表明されている。われわれは無限次元存在であり、全宇宙との関連をうちに包含していること、「詩とは詩であることによって一切が事実であることになるそのような言語である」こと、などなど、論があくまで透徹している。本の最後の一節を紹介しよう。
内外同時、互いに逆方向への爆発錯雑紛糾は詩人の発した全身全霊の言葉によって溌溂生新、大宇宙・銀河洪水とでも言うべき具体的質料と化し、その想像を絶する重々無尽の絡みあいから徹底的に自覚された全くの不可思議である「時」の形相が刻み出される。詩が生まれるのだ。偶然でもあり必然でもある一つ一つの詩が、触れれば手の切れる純粋無垢の静かな静かなその「時」を創り出すのだ。
posted by 洪水HQ at 10:23| Comment(0) | 日記
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