英米文学研究者の新倉俊一さんがこのたび5冊目の詩集『ビザンチュームへの旅』を洪水企画から刊行した。2021年7月25日発行、A5判並製、64ページ。税込1760円。「みらいらん」7号に発表されたタイトル作「ビザンチュームへの旅」のほか、日々の生活、遠方への旅のさまざまなシーンを13〜14行の詩篇にまとめた「冬の旅 抄」22篇、ギリシア神話の風光を取り入れてうたう「ヘレニカ」6篇、そして西脇順三郎や安藤一郎、同時代の詩人たちとの交友を語るエッセイ「詩人の曼荼羅」を収める。
「冬の旅 抄」から「桔梗」と「紅葉」を紹介しよう。
桔 梗
「夏の路は終わった」
と呟いた詩人のあとを
追って秋も過ぎ唯一人
冬の旅を続けている
もう学問も研究も忘れて
ただ白露の下に眠る
宿根の蒼白な桔梗を
ひそかに探しているだけだ
古今集に詠まれている
中国から渡来したという
あの桔梗の花には遥かな
淡い色彩が宿っている
紅 葉
今まで大山詣でを怠ってきたので
関東管領より命令が来て
台風の過ぎた日に山腹へ登った
平安時代から続く阿夫利神社は
四方を険しい山に囲まれていて
ながながと神事が続き漸く
能が始まるころには垂れこめた
雨雲からしとしと滴り始めた
それでも能楽堂の中で無事に
鮮やかな緋色を纏った女たちの
紅葉狩りの宴が催されて
最後は全山が明るく彩られた
西脇順三郎の薫陶を受けた新倉俊一さんの詩風は清らかで、文学に対して達観しているような穏やかさがある。深遠な文学的教養を背景に淡々と語られる詩行は高貴な一人弾き語りだ。そして巻末収録の、西脇順三郎や安藤一郎、同時代の詩人たちとの交友をご自身の視点から細やかに語るエッセイ「詩人の曼荼羅」からは戦後昭和のひとつの中心的な詩のサークルの風光が鮮やかに顕現する。
さて、タイトル作「ビザンチュームへの旅」は、本文にイエイツの名も出てきているように、イエイツの詩「Sailing To Byzantium」をモチーフにしており、それは「魂の歌を習う」という究極の課題について書かれている。II章の「And therefore I have sailed the seas and come / To the holy city of Byzantium.」、III章の「O sages standing in God's holy fire / As in the gold mosaic of a wall, / Come from the holy fire, perne in a gyre, / And be the singing-masters of my soul.」のあたりにその本意があるのだろう(岩波文庫から対訳の『イエイツ詩集』が出ているので参照していただきたい)。詩人・新倉俊一の詩に対する真摯さがこの連関からもうかがえる。
(池田康)

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