地震のお見舞いを申し上げます。
うちの辺りは震度4くらいだったのだろう、寝ていてひどく揺れるのを感じて恐ろしかったが、家具やものが倒れたり落ちたりはなく、胸をなでおろした。なぜ地震はあんなにも突然にくるのだろうか?
この冬から春にかけて、オペラ関連の本を図書館で借りて読んでいたのだが、三澤洋史著『オペラ座のお仕事 世界最高の舞台をつくる』(早川書房)は生彩があって面白く、読んでいてとても気持ちよかった。著者は指揮者で、主に合唱指揮をなりわいとしていて、新国立劇場などで活躍する。多くのオペラの演目を解説するわけでも、オペラ史を系統的に語るわけでもなく、自分の歩いてきた道のりを振り返りながら印象深い出来事を語っていくという、自由でラフな構成なのだが、音楽家が書いてもなかなか語られないような音楽上の機微がさまざまに取り上げられ、説明されていて非常に興味深い。おもに歌手(と合唱団員)がどう声を作り唱うかの話であり、発声しにくい音域でテノールはどう裏声を混ぜ合わせてなめらかな歌声を実現するかとか、言葉をどう歌声で発声するか、言語がちがうといかに言葉と旋律の関係が変わってくるかとか、バスを強く厚くすることがどれほど重要かとか、いずれも教えられることが多い。指揮棒の打点と実際に音が発せられる瞬間との間のわずかな時差についても非常に悩ましい問題として率直に語られていて、かねてから不思議に思っていたことなので、やはりそうなのかと納得したところもあった。なによりも、一曲を創造する現場の動き(政治、駆け引きもふくめて)が生々しい。どうしようもなくぐしゃぐしゃだったアンサンブルが指揮者に導かれてみごとな演奏に化けるさまの描写は、読んでいるだけで音楽が聴こえるようだ。
戦争で世界が激震するのは恐怖そのものであるし、現実の地面が大きく揺れるのも願い下げだが、精神性と創造性に溢れた文章に心が揺さぶられるのはありがたい経験だ。
(池田康)
2022年03月19日
歌の話に心揺さぶられる
posted by 洪水HQ at 10:32| 日記