2023年01月07日

この正月の読書

この正月は久し振りの小旅行に出かけ、気持ちを新たにすることができた。人混みにもまれながらも、どこまでも広がりつづける風景を楽しみ、なつかしさに呼吸が深くなる瞬間もあった。
旅先の本屋で見つけたのが、マルクス・ティール著(小山田豊訳)『マリス・ヤンソンス すべては音楽のために』(春秋社)だ。昨年の夏の刊。この指揮者を贔屓にしていてCDを何十枚も持っている私としては、読まないわけにいかない。
ヤンスンスの音楽家人生が詳細に辿られるのはもちろんだが、オーケストラと指揮者との関係がいかなるものかを知るためにも大変参考になる本。首席指揮者はそのオーケストラの「シェフ」であり、養育者(オーケストラビルダー)であって、誰を「シェフ」に迎えるかについて各オーケストラの責任者・経営陣は本当に真剣に熟考、検討を重ねる。あたかも一国のリーダーを選ぶのと似ているかもしれない。その生理、化学反応、個性にそった成長のありさまがすべての頁にいきいきと描写されていて、活動の奥行きが可視化され、オーケストラ音楽について理解を深くすることができる。
ヤンソンスの音楽家生活で惜しまれることが一つあるとすれば、オペラを振る機会が少なかったことだろうか。とくにワーグナーは断片的に取り上げただけでオペラ作品を一曲通して演奏する機会がなかったようなのはとても残念だ。
そのほか、この正月に遭遇したり情報をもらった出版物について述べると、いりの舎から『玉城徹訳詩集』が出たこと(ゲーテ作品が多い)、南原充士さんが新しい詩集『遡及2022』をアマゾンkindleで出したこと、それから元旦には高岡修句集『蝶瞰図』(ジャプラン)を読んでいた。陽炎のヴァギナ……の句はことに印象に残った。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 12:50| 日記