2023年08月13日

愛敬浩一著『草森紳一は橋を渡る』

草森紳一は橋を渡る表紙S.jpg愛敬浩一さんの草森紳一論の第三弾『草森紳一は橋を渡る』が完成した。サブタイトルは「分別と無分別と、もしくは、詩と散文と」。〈詩人の遠征〉シリーズの第15巻で、212ページ、税込1980円。
袖の案内文は愛敬さん自身がまとめたもので、
「草森紳一の絶筆≠ニも言うべき連載「ベーコンの永代橋」では、死の間際までマンガ『スラムダンク』読み続け、その意志的な「雑文」のスタイル≠ェ天上の高みへとのぼりつめる。二〇〇八年三月十九日、永代橋近くの、門前仲町のマンションにおいて、草森紳一が七十歳で亡くなってから、十三忌も過ぎた。本書は『草森紳一の問い』、『草森紳一「以後」を歩く』に続くシリーズの第3弾。未刊の連載原稿(副島種臣論など)は、今後どうなるのか。慶応義塾大学中国文学科卒業後、ごく短い編集者生活を経て、様々なジャンルの文章を書き続け、毎日出版文化賞を受賞した『江戸のデザイン』の他、草森紳一の専著は六十四冊(増補版や復刊も含む)、対談本が一冊、共著が一冊。改めて、若き日の『ナンセンスの練習』の重要性に思い至る。」
となっている。
「橋を渡る」とは草森紳一の連想の働き方、思考の歩み方をシンボリックに表現したもので、ことに一つの現実存在「永代橋」は草森自身の生活拠点であり重要とされる。
絶筆の連載「ベーコンの永代橋」を読み込んで草森の雑文スタイルの意味を考える第一部が本書のメインとなると言える。草森論三冊目にして愛敬さんの思考は問題の本丸に最接近したかのようだ。草森紳一晩年の風呂敷を縦横に広げる文筆スタイルをこの時代の批評のもっとも可能性を孕んだあり方の一つとして、愛敬さんは評価しようとしているのではないか、そんな気がする。
第二部では、ドラマ『妻は、くノ一』を出発点とする松浦静山論、小説集『鳩を喰う少女』の「橋」的な眼目、『歳三の写真』の写真術創成期と土方歳三の生涯との交点の考察、対談集『アトムと寅さん』に見る草森の映画観、といった事柄が論じられる。
草森紳一の見えにくい本領にさらに一歩近づく一冊と言えるだろう。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 08:28| 日記