菅井敏文さんの新しい詩集『フラグメント』が完成、刊行となった。〈詩人の遠征 extra trek〉シリーズの4巻として制作されている。96ページ、31篇を収録。本体2000円+税。カバー袖の案内文には、
「非凡な決意の悲哀を伝える「革命おじさん」、自分の行動の意味を考えないことを考える「切符を買う」、幻影のガラクタ芸術の動物を気味悪く動かす「段ボールの犬」といった前衛劇を思わせるような作品を核として、菅井敏文の詩的思考の強力な発条が存分に発揮された31篇を収める第四詩集。」
という紹介を置いた。菅井さん独特の謎めいた作品もいろいろ入っていて詩人の世界の形成に寄与しているが、上に挙げた3作は普遍的に優れた特筆したい詩として強いアピールと共に存在している。
最初に詩集原稿を読んだ時は「革命おじさん」が一番いいような気がした。2回目に読んだ時には「段ボールの犬」が最高傑作のように思われた。その前半部を下に引用したい。
段ボールの犬があるく
クレヨンで描かれた眼・口・耳・鼻
見ることができ 食うことができ
聞くことができ 嗅ぐことができるのか
段ボールの切れ端の縒れた舌
垂れたままで呼吸音が聞こえない
頭をすり寄せてくる
カビの臭いがする
仕方がないので頭を撫でてやると
犬は崩れて泥になる
段ボールの犬が近づく
興奮して吠えている
紙と紙のこすれる音がする
頭を小刻みに動かして
目をそらさないまま
飛びかかろうとする
足が地面を離れた瞬間に
犬は倒れ落ちそのまま見えなくなる
段ボールの犬が泡を吹いている
乾ききり消えかかった眼・口・耳・鼻
雑草の歯がゆらゆら動き
毛のない皮膚がめくれて風にぴらぴらする
少し生臭い血の臭いがする
起き上がろうとしたそのときに
犬は分解する
陽ざしに溶けてしまう
それぞれの読者がオリジナルなやり方で読み解いていただければ幸いだ。
(池田康)
