原利代子さんの新しい詩集『本を読む少年が生っている電柱』が洪水企画から刊行された。A5変形判120ページ、2000円+税。カバーの装画は柿崎かずみさんの作品(装丁は巌谷純介氏)。帯文は次のようになっている。
「戦中戦後の時代が夢の回路を通って現在の平穏とつながる──作為も深謀もないこのイマジネーションの自在な往復運動が詩人原利代子の詩の『本』のページを清澄に漉き、綴じ合わせる。」
第一部に最近の身の回りの出来事(旅行含めて)の詩、第二部に夢にまつわる詩、第三部に子供時代を回想する詩、第四部に戦争に関わる詩を集める。現在と過去との間の自由な往還がこの詩人の詩世界の独自性を形作っており、この詩集を無二のものとしている。
そして柔軟な感性がすべての作品に作用して生き生きとした表情を顕現させている。
打ち合わせのために静岡県藤枝市のお宅を訪れてお話したのだが、非常に生気の満ち満ちた方でそれはそのまま各々の詩で活気となって息づいているように思う。
タイトル作「本を読む少年が生っている電柱」を引用紹介したい。
引っ越しを少年たちが見物している
物珍し気に首をのばし
生意気がお互いをつっつきあって
力んで荷を運ぶおとなの本気を
せせら笑ったりして
本を入れた箱の荷がほどかれると
のばす首に力がまし積み上げられた書物の周りを
いつの間にやらずかずか取り囲んだ少年たち
本の山からそれぞれが気に入ったものを見つけると
道端に座り込んでにわかの読書会が始まった
本の少ない時代だった
引っ越し騒動の家で
少年たちは本の中に嵌り込んでいった
家の引っ越しが終わっても
読書会は終わらない
暗くなると
少年たちは外の電柱の明かりの下で本を読んだ
二〇燭ほどの電柱の明かりの下
誰かがどこからか梯子を持ってきて電柱に掛けた
ぞろぞろと少年たちは梯子を上る
なるべく電灯に近いところまで上る
片足片手で梯子につかまり夢中で本を読む子
両足を梯子に絡み付かせ目は頁から離さない子
横木の間にお尻をはめ込み悠然と読む子
弱い灯りを求め危なげに身を乗り出している子
ずり落ちそうになりながらも本から目を離さない
まるで本を読む少年が電柱に生っているようだ
小さいわたしは引っ越し荷物の間からじっと見ていた
本を読む少年が重なり合って生っている電柱を
遠い昔のことだけれど
その電柱は今でもわたしの中に立っている
わたしもその電柱に生っているのだ
そして本を読んでいる
二〇燭の明かりの下で
(池田康)
