2010年01月04日
富士の奇跡
年末年始は岡本太郎のピカソ論とか穂村弘氏の対談集とか何冊か本を読んだが、その中の一冊はG・グリーンの『情事の終り』(新潮文庫、いまは品切状態かもしれない、たまたま古本で見つけたので読みはじめた…)で、大胆な「奇跡の空襲」に驚かされる。G・グリーンは以前からほそぼそと興味がつづいていて、昨年はいそがしい合間をぬって『ヒューマン・ファクター』を読み、この作品も非常に上手く、面白かったが、民族や政治の問題は出てきても、この人特有の宗教の問題は強くは出てこなかったような気がした。『情事の終り』はその問題が全面展開されていて、恐ろしささえ覚える。ずいぶん昔に読んだ戯曲「The Potting Shed」ではそれが凝縮された形で出されていて、この一篇ではじめてG・グリーンという作家に出会ったような気がしたものだった。さて奇跡といえば、これは奇跡とは言えないだろうけどそれに似たようなことに、郷里の名古屋から東京方面に向かう道中で遭遇した。東海道新幹線で南側に座れば海が見え、北側に座れば(悪天候でなければ)富士山が見える。この日は南側に座ったので富士はあきらめていたのだが、その南側の窓から一瞬富士が見えたのだった。静岡駅手前の場所。前方にはっきりと、いつもの悠揚な姿とは違う、峻厳な富士の姿が見えた。目の錯覚とかではなくて、線路の方角がたまたま合理的に富士の見える角度にその場所はなっていたということだろうが、思いがけず、目を疑うほどの驚きではあった。世界はときにこのようにツイストする。列車本体から10度ほどそれるだけのぎりぎりの角度だから、下りの場合は進行方向とは逆に座らない限り、見るのは難しいだろう。(池田康)
posted by 洪水HQ at 11:23| Comment(0)
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