先週、新国立劇場中劇場にてオペラ「鹿鳴館」を観た。原作=三島由紀夫、作曲=池辺晋一郎、演出=鵜山仁。もともとは指揮者の故若杉弘さんの発案だったようで、若杉氏逝去後、実現に向けて相当な苦労と苦悩があったようだが、無事めでたく完成、公開となり、喜ばしい。
客席は満員。島次郎氏による舞台美術は、傾斜をつけた円形の第二舞台が舞台上に設えられ、回転しながらドラマの進行を活気づける。注目せずにはいられないこの傾斜は、話の設定になっている時代の危うさを表現しているのか。三島の原作の膨大な言葉数を削りに削って台本を作ったということだが、スムーズに話が動き、つまずきは感じなかった。
池辺氏による音楽については、二週間ほど前の同劇場でのトークイベントで、ピアノによってテーマの一部が演奏されたときには、なにか消化しにくい異様な違和感があり、これがどんな音楽になるのだろうと不安をもって公演にのぞんだが、本番で聴く音楽は、ドラマにうまくはまっていて、なるほどこうなるのかと納得した。現在からは遠い時代の、その遠さをきわめて意識的に含意させた、主情的というよりも客観的な(しかも表現主義的なアクセントをともなった)造形を目指したもののように聴かれた。不気味な響き、強烈な色合いの音楽表現がこの舞台の異時代空間であることを如実にきわだたせていた。作曲上の巧みさをとりわけ感じさせた箇所のひとつは、景山伯爵が清原久雄にピストルを持たせて父親である永之輔の殺害を促す、かたや恋人の大徳寺顕子は一緒に外国に逃げようと久雄に訴える、という相反する方向の歌声が重なるシーンで、空間がねじれるような苦い響きがシーンの意味をよく語っていた。最後の、えぐみのある強烈なワルツの場面も出色。
東京交響楽団、沼尻竜典(指揮)、腰越満美(ソプラノ)、与那城敬(バリトン)、宮本益光(バリトン)、小原啓楼(テノール)、安井陽子(ソプラノ)ほか、といった布陣。(池田康)
2010年06月29日
オペラ「鹿鳴館」
posted by 洪水HQ at 21:50| Comment(0)
| 日記
この記事へのコメント
コメントを書く