2010年10月07日

宮坂杏子歌集『辛夷咲く園』刊行

kobushisakusono2.jpg洪水企画から新刊、宮坂杏子歌集『辛夷咲く園』。今回は弊社初めてのハードカバーである。手に持った感じ、さすがに立派だと、つくづく感心している。制作の途中では選択肢のどれを取るかでいろいろ難しいこともあったのだが、できあがってみるとすんなり自然に生まれた感じがあって頼もしい。

宮坂杏子さんは「ぱにあ」同人で、短歌歴十余年、今回がはじめての歌集である。幼稚園の園長先生で、書名の由来は、幼稚園に辛夷の木があることによる。だから、園児との生活を詠んだ歌が多く、これがこの歌集の一番大きな柱になっている。

園児らはいがぐり頭になりし子を囲みて代はる代はるになでる
子どもらが名づけしでで虫「ラブちやん」は放浪ぐせあり 留守なり今日も
昨日怪獣今日ウルトラマン 園児らは庭かけまはる変幻自在に


幼稚園の子供たちが勉強したり遊んだりする日常の風景の写真も入っていて、子供たちと対話する時間の空気の濃さに近づくことができる。
他の章では、まず家族との日々の生活や、肉親との死別の辛さを詠んだ歌などが並ぶ。

耳たぶを触るくせ持つ父の手のぬくもりいまだわれに残りぬ
わが手より三匙の白湯を飲ませたり母よその日を限りとなしつ

さらに旅行詠が収録されている。個人的には「宗谷の碑文」と題された一連に衝撃をうけた。

樺太に露と消えたる乙女らの自害をば知る宗谷の碑文
「帰国せよ」の指令受けしも通信の使命に殉じし乙女ら哀し
毒あふり国安かれと祈りたる乙女ら打ちたる最後の通信
海は凪かもめ飛びかふ遥か沖かすみて見えるサハリンの島


この歴史事実を知らなかったこともあるが、たったの四首でこれだけの叙事詩的空間を創出するのだから、短歌もたいしたものだとつくづく感じ入った。(池田康)

posted by 洪水HQ at 23:42| Comment(0) | 日記
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