2010年12月28日

吉田義昭詩集『海の透視図 長崎半島から』

yosidayosiaki-uminotoshizu.jpg吉田義昭さんの新しい詩集が洪水企画から出た。『海の透視図 長崎半島から』(税込1680円)。新しいといっても、この作品集のもともとの構想は数十年前に遡るのだそうで、歳月の熟成を経てきた想念がようやくこの一冊に結実し世界に姿を現したということだ。
装丁(造本設計)は、吉田氏の友人の画家・柿本忠男氏。パソコン上でここに出した書影を見るとなんでもないように見えるかもしれないが、手にとって見ていただければ、色調のニュアンスと輝きが、世間一般の本とはまったく種を異にするものだということがおわかりになるだろう。
収められた作品について少しだけ紹介すると、若い頃の作品だという、少年のみずみずしくも苦く鋭い感覚を形象化した「影絵遊び詩篇」シリーズも印象的な章として入っているけど、なによりも読者を捉えるのは、他の多くの詩篇で描かれる「叔父さん」の姿だ。長崎で原爆に遭った叔父さん、不器用に自分の信念とともに生きる叔父さん、“海の時間”と対話する叔父さん、そうした姿が愛惜とやるせなさとをもって読者の心に焼き付いてくる。
帯に、詩の一節が紹介されている:
「かつて一緒に資料館に行った時、平和公園を歩きながら、私は初めて話したはずだ。私が被爆した日のことを。あれ以来、おまえはなぜ、私を見る視線を変えたのか。なぜ、あの時から、原爆の話を避けたのか。それこそお前の心の弱さだ。私は何も変わっていない。ただ被爆の話をしただけだ。」(「海の時間」より)
吉田義昭氏が、真剣に、故郷長崎と、その公的・私的歴史もろとも、向き合った詩の仕事がこの一冊である。(池田康)
posted by 洪水HQ at 00:07| Comment(0) | 日記
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