2011年01月06日

野樹かずみ歌集『もうひとりのわたしがどこかとおくにいていまこの月をみているとおもう』

nogikazumikashu-mouhitorino.jpgこの1月1日を発行日にして野樹かずみさんの第二歌集『もうひとりのわたしがどこかとおくにいていまこの月をみているとおもう』が洪水企画から出た(税込1890円)。昨年河津聖恵さんとのコラボで『天秤 わたしたちの空』を作った野樹さんである。制作の裏話を少々すると、野樹さんがもっとも信頼している歌人の蝦名泰洋さんと作品を絞り込み構成を考えタイトルを決め等々、いろいろつっこんだ相談のやりとりがあったようだ。帯文も蝦名さんの手になるもので、名コーチというべきか。昨年10月に三人で会って話をし、それから一気に制作は進んだ。カバーの、壁に貼ってある絵は息子さんの陸史君が描いたもので、おそろしく長いタイトルともども、デザイナーの巌谷純介さんの手腕により見事に装丁空間に活かされた。
作品のことを紹介すると、野樹さんの鋭敏さと激烈さと優しさが裸になって出ている歌の数々が並んでいると言っていいのだろうか、家族のこと、朝鮮半島体験のこと、フィリピンのこと、広島のこと、素材は多岐に渡るけれどもすべて“野樹かずみの声”がはっきりと聴こえる歌ばかりだ。
「洪水」にも掲載したフィリピン連作をふくむ章「この世の底に」からその冒頭の作品を引用する:

ファストフード店の入口 銃をもつ警備員いてにこやかである
お誕生会の三角帽子かぶった子と物乞いする子 強化ガラスを隔て
屋根のある歩道橋に家族よりそって暮らせば小便臭きその歩道橋
人間が埃のように灰色に路上に吹きよせられていて 母と子
(風のように年寄り)風が吹く街で煙草の一本ずつを売り歩く子も

思いを口にすると不思議に短歌の文字数になってしまうという天性の歌人の、満を持した充実の第二歌集である。ぜひご覧いただきたい。(池田康)
posted by 洪水HQ at 11:32| Comment(0) | 日記
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