2011年06月11日

小島きみ子詩集『その人の唇を襲った火は』

kojima-sishu.jpg小島きみ子さんの新しい詩集が洪水企画から出た。「その人の唇を襲った火は」、この詩集タイトルを提示されたとき、どきりとし、本気度がじんと伝わってきた。長野に赴き、詩集制作の相談をしたときのことを思い出す。風雅なカフェで、収録されるはずの各篇についてその背景とか歴史、思い入れを静かにしかし力強く語ってくださった。そうしたことは実際に読者が読む場合は現物の情報としては与えられないわけだけれど、詩の中に溶け込んではいるわけで、これら濃密な作品群の味の秘密の成分分析をちょっと垣間見せてもらったようなもので、作品の影となって私の中に残っている。詩集はファンタジーの色が濃く、まず最初の詩篇「JESUS LOVES ME」を読み進めるうちに、物語の奥へ奥へと入っていくかのような感じを覚えるだろうが、じつは裏側に柔らかく強いリアリティがあり、フィクションの層とそれとの衝突というか融合の具合がこの詩集の基調を作りなしている。野村喜和夫さんが跋を書いて下さっていて、その題は「高地への誘い」となっているが、そこに含意されている傾斜は、虚構のゼロ地点から次元を高めた実在3000ftへと向う傾斜とも言えるかもしれない。その先には宗教的な尖りも見えてくる。帯の裏側に引用した詩句は、私が挙げた七つほどの引用フレーズの候補から小島さんが装丁に合わせて選んだもので、この詩集の代表としては意表をつくものだろうが、とりあわせとして面白くなったのではなかろうか:

遠くから見るとヒヨドリの冠羽のようなヘアスタイルの少年が、ポピーの花咲く丘を上っていくところだった。丘の上では涼しげにポプラの葉が鳴っていた。私よりも背の高くなった彼は(あなたの結婚は間違いでした)と言うのだった。あまりの驚きで立ち尽くす私を置いて、少年はひとりで丘を下りて行ってしまった。(「その人の唇を襲った火は」より)

(池田康)
posted by 洪水HQ at 10:12| Comment(0) | 日記
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