土曜美術社出版販売より刊行(昨年11月)。最初の章「蟷螂のミイラに寄せるソネット」にソネット形式の詩が十一篇収められている。非常に切れ味がよく、力強いヴァースの展開に気が引き締まる。ことに「マフラー」は度外れの豪快さがあり、必読、下に紹介したい。
後ろ手に縛られ絞首台に立ったフセインは
顎を突き上げ
俺は殉教者だと
目隠しの頭巾を拒否した
唾を吐きアメリカと異教徒を呪った
縄が首にかかったとき
縄は固くて首が傷つくから
マフラーを巻いてやると刑吏が言った
フセインは大きく頷き
マフラーの恩寵にすがって
穴の底に落ちて行った
わが処刑の日には
神のご慈悲で おお
雪の逢瀬に巻いた薔薇色のマフラーを
さて第二章以降は14行というような決まりのない多行詩が収められているわけだが、第一章のソネットとの違いをかなり明らかに感じたように思われたので書いておきたい。ソネットとして書かれた詩は、ここで終わるということがはっきりしているから、逆算の力が働く。詩を推進する前向きのベクトルとともに詩を終わらせる後向きのベクトルの力学が発生する。それは書き手はもちろん読み手も感じながら想定しながら読むことになるから、特別な緊張が生成することになる。短歌や俳句では常在する詩型の力学だが、自由詩でもソネットのように行数のはっきりと決まっている詩では、この現象が生ずるわけだ。第二章以降のような行数が任意になっている詩では、どこまででも書ける、好きなところで終わる、という終点がオープンな形式となり、逆算の力学は効きようがない。これは興味深い相違といえる。
総じて、人生の終章を間近にして、とでもいうような特別な感慨に満ちているが、言葉のめりはりはまだまだ元気で若々しく、己の弱み痛みを鋭くえぐる大胆不敵さを見習いたいものと、感じ入りながら一読した。
(池田康)
2012年01月31日
石原武詩集『金輪際のバラッド』
posted by 洪水HQ at 14:36| Comment(0)
| 日記
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