この書名でぼんやりとでも内容が推し量れる人はいるのだろうか。そして読み終わってこの書名を納得できる人がどれくらいいるだろうか、ということが気になるぐらい、タイトルからしても内容からしても奇書である。ジャンルも詩というべきか小説というべきか、迷うところがある。しかしすばらしく面白く読める。とてもとても奇怪な展開を見せるのだが、一気に読了した。コクゾウムシが主人公的キャラクターと言えるが、それとともに、ドビュッシー、坂本龍馬、彼の拳銃を製造したスミス&ウェッソン社、ドジソン(ルイス・キャロル)、コッホ、ジョン・メリック、メーテルリンク、森鷗外、アルヴァーロ(「運命の力」の主人公)、小泉八雲、河竹黙阿弥……といった顔ぶれが登場して話をどんどん広げる。これらモチーフの羅列から少しでも筋の形が想像できるかというと無理だろうから、あとがきを読むと、「1862年アメリカからイギリスに送ったトウモロコシの中から13.5トンの穀象が発見された例もあり、そのときの推定数は約40億匹であること、これには驚愕し、絶対この話を物語にしたいと思うようになった。(中略)穀象虫が大暴れしたその年・その時代にはいったい世界中で何が起きていたのだろうか。(中略)1862年前後の世界中の出来事を水平展開で編集する、という作業を始めた」とあり、これで方法の大凡はわかるわけだが、それにしても、その結果がこのような作品になるのだろうか。興味深いのは、これほど「変」な作りの「物語」でありながら、実に独自の面白さがあるということだ。これはなんなのだろうと考えさせられる。小説として受け入れられるならそれも好ましいことだろうが、もしそれが難しいとしたら、詩にかかわる者が詩として心して読むべきだろう。私家版(「しばりふじ企画」の発行所名あり)、1000円。
(池田康)
2012年07月13日
広瀬大志著『ぬきてらしる』
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