2013年03月22日

嶋岡晨詩集『魂柱・反世界遺構』

konchuhansekai.jpg『終点オクシモロン』から一年、嶋岡晨さんの新詩集がはやくも生まれた。執筆の精力の旺盛さには舌を巻くほかない。原稿を受け取りにうかがうと、渡されたのは、一冊のノートブック。方眼の罫で、最初の頁から最後の頁までびっしりと書きこまれてある。その順番通りに並べて詩集にしたいとのこと。作られた順番としか思えない。それも昨年一年のうちに。とんでもない湧出量の泉なのだ。
二部立てになっていて、第一部は短詩を集め「魂柱」というタイトルがついている。これはヴァイオリンの内部にある、外からは見えない、構造を支える部品なのだそうだが、含蓄ある名前だ。第二部は「反世界遺構」のタイトルで比較的長い詩が収められている。作風は前作「終点オクシモロン」に通じる、激烈で激辛な語り口が特徴的。引用して紹介するのに、どの作品でもよいような気がするのだが、ここでは第二部の冒頭を飾る「遺構フィールドワーク」をご覧に入れる。

 神のいない神殿の遺構だ わたしは
 拝跪を知らない民族の建てた ドーリア式の空虚
 血の垂れる柱列の 土台しか残っていない

 苦難の屋根 快美の壁も くずれ落ち
 一匹の萎えた蛇 権力のミイラ 杖がとぐろ巻き
 地底の浴場に渇きつづける 幻の棲み処だ

 集めた兵士らの亡骸の ありえない自然発火を待つ
 わたしは愚かな城砦に似た 征服者のぬけがらだ

 理由も目的もなく五千年 建てかけては壊す
 納骨堂にひとしい議事堂 もっとも下手な人生の構築物
 わたしはあなただ 溝鼠らの衛兵が支える王妃の臀部
 無意味に熱い椅子がはずみ叫ぶ 一種の劇場の 跡

 偽詩人どもの毒牙の寄生地 茸の耳も生えない 砂の聖地

 食えば必ず誤嚥する口から 吐き出された時間の胃液
 妄執の衣桁に垂れさがる 思想めく衣裳の あなたは
 たちまち散りうせる 悩ましい遺香

 つまりわたしはつねに誰かを裏切るために存在する
 壮大華麗な人類博物館の 焼け跡の 釘
 あるいは泡だらけの宝物殿の 合わない錠前の穴に
 あわてて餓鬼言葉をねじこむ 虚栄心の 鍵

 換喩より肝油をこのむ史蹟狂の 日常にひそむ
 博士も泣いて訪れる旧い英雄のたましいの豪邸
 わたしはもはや盗むもののない盗賊 あなた
      目の前の 今のいにしえ 死の死である。

表紙カバーの絵はパプアニューギニアで作られた人間像(神像?)だとのこと。この一書を手に取っていただき、詩人・嶋岡晨の現今の健在ぶり、満開ぶりをご確認下さい。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 16:47| Comment(0) | 日記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: