2013年12月06日

吉田義昭エッセイ集『歌の履歴書─「ミスティ」はもう歌えない─』

utanorirekisho.jpg詩人の吉田義昭さんのエッセイ集『歌の履歴書』が完成した。発行=洪水企画、発売=草場書房、定価1500円+税。「洪水」に連載中のジャズ・スタンダード・ソングに関するエッセイを中心に、未発表の文章も加えてまとめた第一部「歌の履歴書」、詩や文学を論じた第二部「詩の履歴書」、そして急性心筋梗塞で倒れたときの顛末をつづった「真夜中のピアニスト」が第三部として最後に置かれている。いずれも自身の経験を土台にして語られていて、人間の生の果汁がたっぷりと湛えられており、読ませる。第一部で取り上げられる歌は、「アメージング・グレイス」「マイ・ウェイ」「この素晴らしき世界」「枯葉」「愛さずにはいられない」「コンドルは飛んでいく」「奇妙な果実」「ミスティ」「酒とバラの日々」「モナリザ」等といった名曲たち。曲の生まれた経緯も紹介されて興味深いし、歌詞の勘所も絶妙な鑑賞で示され、その曲にぐっと歩み寄ることができ、耳をそばだてて聴いてみたくなる。第二部では、谷川俊太郎作「ことばあそびうた」が自閉症の女の子を救った話(「詩人の声が聞こえた」)をはじめとして、レイチェル・カーソン著『沈黙の春』や原爆についての詩を集めた『原爆詩一八一人集』を論じたエッセイ、そして死をテーマにした詩を考える「唯物論的な「死者」の表現法について」が収録されている。吉田さんの現時点での散文による思考と感情の集大成と言えるだろう。装丁は著者の友人の柿本忠男さんによるもの。帯にも引用されている次の詩句は本書の底に吉田さんが忍ばせた思いを表しているようにも思われる。

 あなたと同じ時代を生きる
 その確かさを感じていた
 同じ海
 同じ輝き
 同じ時代を生きて
 そうして同じ歌を一緒に歌った

 あなたと同じ愛を生きる
 その温もりを抱きしめていた
 同じ空
 同じ雲
 同じ愛を生きて
 そうして同じ歌を一緒に歌った(「生きている」より)

(池田康)
posted by 洪水HQ at 12:02| Comment(0) | 日記
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