
日本の抽象絵画の先駆者、難波田龍起の次男として生まれた史男は、32歳で没するまでに膨大な作品を残している。今回は、同ギャラリーのコレクションと、全国各地から集められた作品の計240点と資料による、没後最大規模の展覧会となった。企画担当者の方々の真摯で誠実な姿勢が伝わってくる、見応えのある内容である。
史男作品を新たな視点でとらえる試みとして、「無意識の深みから」、「コスモスへの旅」、「幾何学と生命」といったテーマ別に分けられた展示は、その作品の多様な世界を物語っている。「夭折」「青春」といった言葉は、もう不用だろう。作品は作品として残り、語り継がれていくことを、作品そのものが証明している。
それにしても、小品の水彩画が、ここまで深く内面性の豊かな表現をなしえたとは驚きだ。インクと水彩で、時にユーモラス、時に理知的、音楽的で、しかも常に詩的なのである。60年代に前衛的表現をめざした作家が、その新しさ故にかえって古びて見えてしまうのと対照的に、現代の作家に通じる新しさもある。
若い人達にも見てもらいたい作品群である。
「難波田史男の15年」東京オペラシティアートギャラリーにて、
3月25日(日)まで。(休館日は月曜日、2月12日(日・全館休館日))
(林小冬)