2025年03月26日

南原充士訳『シェークスピア ソネット集』

ソネット集カバーS.jpg南原充士さんが和訳した『シェークスピア ソネット集』が〈詩人の遠征 extra trek〉シリーズの第3巻として出た。A5判、168ページ、横組み、本体2100円+税。
シェークスピアのソネットは154篇あり、それを7年かけて訳出・推敲したという。粘り強い努力の結晶であり、英語原文も収録しているから、我々読者は和訳と原文を比べながら読み進むことで実り豊かな読書体験を得ることができる。
シェークスピアのソネットは見慣れない形であり、連に分かれておらず14行がつなげて並べられ、最後の2行(カプレット)を全体のまとめとして少し行頭を下げて組んでいる。
南原さんによれば、シェークスピアのソネットは
@ 若い男性(美男子)に子作りを勧める詩(1〜17)
A 美男子に対する作者の愛を歌った詩(18〜126)
B 若い女性への愛の詩(127〜152)(ダークレディ詩篇と呼ばれる)
C 寓話的なキューピッドの詩(153〜154)
の4つに大きく分かれるとのことだ。
恋人を夏の日に比べて称賛する18番は有名。最も多く見られるのは、恋人に対して裏切られたと恨み言を言ったり、自分が裏切った謝罪の言葉を連ねたりという生々しい睦言の延長のような内容なのだが、シェークスピアの措辞の巧みさで読み甲斐のあるものとなっている。人間を死へと送り届ける「時の大鎌」の虚無的なイメージも頻出するが、対抗するように、恋人の魅力を詩にすることで愛の永遠の記念碑を建てるというポジティブな考えも顕著だ。
下にソネット43番を引用紹介する。

わたしが眠っているときわたしの目は最もよく見える
なぜなら昼間はずっとさほど注目されない物ばかりを見るからだ
だがわたしが眠るとき夢の中でそれらはあなたを見る
そして闇の中で輝き闇を明るく照らす、
そしてあなたの影は周りの影たちを明るく照らす
あなたの影は眠れる目の中でかくも明るく輝くが
あなたの実体は 晴れた昼に それにもまして明るいあなたの光によって
どんなにか幸福な様子を示すだろう、
深夜にあなたの美しく不完全な影は
深い眠りの中で眠れる目にとどまるが
日の光の中であなたを見ることによって
わたしの目はまあどんなにか祝福されるだろう、
 わたしがあなたを見るまではあらゆる昼は夜のように見え
 そして夢があなたをわたしに示すとき夜は明るい昼のように見える。

Sonnet XLIII
When most I wink, then do mine eyes best see,
For all the day they view things unrespected;
But when I sleep, in dreams they look on thee,
And darkly bright, are bright in dark directed.
Then thou, whose shadow shadows doth make bright,
How would thy shadow’s form form happy show
To the clear day with thy much clearer light,
When to unseeing eyes thy shade shines so!
How would, I say, mine eyes be blessed made
By looking on thee in the living day,
When in dead night thy fair imperfect shade
Through heavy sleep on sightless eyes doth stay!
All days are nights to see till I see thee,
And nights bright days when dreams do show thee me.

(池田康)
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2025年03月15日

蝦名泰洋詩集『王国を見にいくと言い残して』

蝦名詩集.jpg四年前に亡くなった蝦名泰洋さんの遺作詩集『王国を見にいくと言い残して』が書肆侃侃房から刊行された。編集=野樹かずみ。第一部は1994年に出た詩集『カール ハインツ ベルナルト』を、第二部は1995年以後の詩を、第三部は青森の詩人たちに寄せた作品を、第四部は初期詩篇を収録する。蝦名さんに深い思いを抱く方はぜひご覧いただきたい。歌人だった蝦名さんは短歌では高度なレトリックを終始維持して詩想を抽象的・幻想的領域にかかげていた感じがあるが、詩ではなまな人間性が親しく感じられるものがいくつもあるように思う。以下は「書店主」の後半。

 確実に八千部売れる詩集及び
 確実に八万部売れる小説単行本を
 年に十冊ぐらい出版
 するかたわらに
 十分の一エーカーほどの
 歩きやすい書店を経営する
 売れる本はしかたなく売り
 すばらしい本は
 返品期限が来るまで大切に並べ
 期限が切れても未練を残しながら
 わが再読図書として愛し
 巷間の話題にのぼることあらば
 おのが喜びのごとく喜び
 空を思い
 応援し
 できることならば母に親切
 そういうものに
 私はなりたい

(池田康)
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2025年03月08日

『たなかあきみつ全詩集』

KIMG0063.JPG『たなかあきみつ全詩集』が未知谷から刊行された。A5判上製、352ページ、本体5000円+税。
最初期の詩群と、8冊の詩集『燐をおびてとびはねる』『声の痣』『ピッツィカーレ』『イナシュヴェ』『アンフォルム群』『静かなるもののざわめき P・S』『アンフォルム群プラス』『境目、越境』が収められており、巻末には、学生時代からの詩友だった一色真理氏の解説文と、小生の回想を交えた小論も収録されている。この独自の道を貫いた孤高の詩人の仕事に興味を抱く方はぜひご覧いただきたい。
なお、たなかあきみつさんはロシア詩の翻訳にも精力を傾けたが、それを集大成した『たなかあきみつ全訳詩集』(こちらは非売品)も今回同時に作られており、沼野充義、一色真理両氏の解説文が併録されている。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 10:02| 日記

2025年02月26日

最近のニュース

ニュースその1
谷口ちかえ著『世界の裏窓から カリブ篇』(洪水企画、〈詩人の遠征extra trek〉シリーズ2巻)が2024年度日本詩人クラブ詩界賞特別賞を受賞。Congratulations!

ニュースその2
帯状疱疹を患い、治療中。痛い、という症状とともに、痒い、があり、これが寝ている時などはバカにならない障害となる。

ニュースその3
『たなかあきみつ全詩集』(未知谷)、『蝦名泰洋詩集』(書肆侃侃房)がもうすぐ完成するとのこと。ご遺族、遺志を継ぐ方々の努力のたまもの。

(池田康)
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2025年02月08日

ブログ Herb Port of Poets

「みらいらん」夏号(16号)では、今の世界の詩の特集「漂着する世界の破片」を組む予定です。系統立てず、寄り集まるままにいろいろ並べてみようというゆるやかな方針です。

また特集の一環として、海外の詩人たちに投稿してもらうための窓口として、ブログ「Herb Port of Poets」を開設しました。

そのURLです。




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海外の詩人の友だちにお勧めいただければ幸いに存じます。日本在住の方も歓迎いたします。

(池田康)
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2025年02月01日

最近のへぇー

最近、へぇーと思ったこと。
NHKのネットの番組表をぼんやり見ていたら、8Kのとある音楽番組に「22.2サラウンド」と書いてあった。22?……22個のスピーカー(+2個のサブウーファー)を使って鳴らすということだろうか。誰がそんな音響システムを持っているのだろう。うちにもAVアンプがあり、5つのへっぽこ安スピーカーをつないで大いにお世話になっているので(サブウーファーはまだ持っていない)、マルチチャンネルのメリットはそれなりにわかっているつもりだが、22チャンネルとはなんともかともイカれている。22のスピーカーを配置するだけでも大変だが、テレビからアンプへとつながるシステムがどんなモンスターになるのか、見当もつかない。音を体験してみたいものだ。十年後のブルーレイディスクの音声はサラウンド22.2が標準になるのだろうか。十年後の住宅のリビングルームは22個のスピーカーが埋め込まれていることが常識になるのだろうか。
歌手・こっちのけんと。昨年の11月か12月くらいにその存在を知ったが、かなりのインパクトの新しさを覚える。かつての宇多田ヒカルと同じくらい新しいとまでは言わないが、聴いて新鮮さに打たれるのは、曲の部分部分のつなげ方に発明と工夫があり(モンタージュの微かな異化もある?)、独特の弾みを仕込むからだろうか。他人の曲をうたっても生彩がある。
先日、映画「トワイライト・ウォーリアーズ 決戦!九龍城砦」を見たのだが(十年分の活劇アクションを見た感じ)、なぜか九龍城の姿がブリューゲルの描くバベルの塔を彷彿とさせた。二つは全く別物なのに。かたやバベルの塔は、エスペラント語の創造にもつながるような、理知的な目標を目指す建造物であり、かたや九龍城はそんな理知的な理想は皆無の、気ままに野放図に増築を重ねた立体的なスラム街なのだ。映画で描かれる城内の生活の、多くの心が融け合うようなうっとりとした共同体意識が「一つの言語」の見事な実現と見えたのかもしれない。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 14:42| 日記

2025年01月20日

虚の筏35号

「虚の筏」35号が完成した。今回の参加者は、平井達也、生野毅、海埜今日子、二条千河、久野雅幸、小島きみ子の皆さんと、小生。
下記のリンクよりご覧ください。
http://kozui.sakura.ne.jp/soranoikada35.pdf

過去の「虚の筏」については次のページをご覧ください。
http://kozui.sakura.ne.jp/soranoikada.html

(池田康)
posted by 洪水HQ at 08:45| 日記

2025年01月18日

コンサート「国のない人々」

昨夜、杉並公会堂小ホールで開かれた、アイデンティティとは何か、故郷とは何かをテーマとするオムニバス・コンサート。
第一部は東欧ユダヤの歌、“祖国なき流浪の民の心の故郷”というサブタイトルがついている。歌手のこぐれみわぞうが中心で、ピアノ・コントラバス・パーカッションが伴奏。この歌手の歌声はしっかりしていて力強く魅力的で、その開かれた響かせ方を聴いていると、昔ライブを聴いたyaeの歌声がほのかに思い出され、さらに連想を逞しくするなら加藤登紀子の音楽スピリットに近いものがあるのかもしれないとも思う。
第二部はコントラバス奏者の河崎純を中心とする「河崎純・音楽詩劇研究所」の『ユーラシアンオペラ』のステージ。第一部で伴奏だった楽器が前面に出て、対等にアンサンブルを組み、歌声もその一部となる。宮沢賢治の「ポラーノの広場」からインスピレーションを得て各国の民謡も取り入れながら作っているとのこと。最後の曲の、なにやらトランス状態を感じさせる、音楽の無礼講ともいうべき音の出入りの賑やかな柔らかい自由な雰囲気が印象に残った。
第三部は在日コリアンのステージ、ジャズテイストのサックス、やるせなくむせぶエレキギターと韓国伝統楽器の太鼓が絡む意外性が面白く、何よりお囃子を伴った太鼓アンサンブルの力強さは決定的なものがあり、有無をいわせず腹に届く。
第四部はAyuo(歌・ギター)を中心とするステージ。すべての曲に随伴した立岩潤三のパーカッションが効いていた。演奏された5作品のうち4曲目「創造された現実の中で生きている私たち」が最もユニークな可能性を感じさせた。楽器群が即興演奏する中で男女が思索の言葉を誦する。ただそのテキストが普通の文章だったのが残念で、詩の強度を持ったテキストだったらもっと良かったのではないかと思われた。
このコンサートでは「みらいらん」15号で紹介した『西村朗しるべせよ』の著者の丘山万里子さんにお会いできたことも幸運だった。
(池田康)
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2025年01月08日

年のはじめにやったこと

湘南平(標高約180メートル)に登る。これは毎年の慣習で、天気が悪かったことはない。
ベートーヴェンの交響曲を1番から9番まで全部聴く。これは昨年もやった。ヤンソンス&バイエルン放響のベートーヴェン交響曲全集は合間合間に現代曲が入っていて、適度の刺激になる。
髭剃りの刃を替える。昔、一枚刃のものを使っていたときは月に一度くらいの頻度で新しいものに替えていたが、五枚刃のものを使うようになって、一年に一度で済むようになった。
餅を食べる。今年は買いすぎて、余った。今年も喉に詰まらせずに食べることができたのは幸いだった。餅を食べるのにもスリルがある。
正月には分厚い本を読み通そうと思っていたのだけれど、読み始めても長く続かない。集中力が散漫になるのは年始の魔力だろうか。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 11:04| 日記

2024年12月29日

花とみどり・いのちと心

DSCF3626.JPG昨日は平井達也氏とともに立川市・昭和記念公園の花みどり文化センターで開催中の「花とみどり・いのちと心」展を訪れ、豊田洋次氏にお会いした。今回の作品はアルミ板を加工して作ったレリーフ「われいろみどり」「われいろぴんく」、割れ目から色がかすかに覗いている。制作過程についてもいろいろ説明をうかがった。現実的意味を取り込みそこに訴えかけることの多い他の作家と違って豊田さんは彫刻スタイルの高次元の数学と取り組んでいるように見える。現代美術作家は誰もやってないことをやるのが基本と語る。感想を聞かれて、以前の作品と比べてカオスの成分が多いですねなどなどいい加減な返事をした、恐縮。
他の作家たちの展示も見る。黒焦げの棺を並べた中垣克久「世間は虚仮なりー戦の民の牲ー」からは強烈なインパクトを受けた。
(池田康)
posted by 洪水HQ at 11:35| 日記